メール配信サービスのプロダクトマネージャーが解説 エンジニアが握る到達率向上のカギとは
メールはインターネット上で欠かせないツールですが、実は「メールが届かない」というトラブルが頻発しています。メールサーバの構築や運用方法を見直すことで、メールが届くようになるかもしれません。今回は株式会社リンクが提供しているメールリレーサービスのプロダクトマネージャー・菱沼憲司に、メール到達率を上げるメールサーバ運用について聞きました。
1.「メールが届かない」問題の解決はなぜ難しいのか
―多くの会社ではいまだに、メールが届かないという問題が起こっています。この原因はメールサーバを管理するエンジニアに原因があるのでしょうか。
原因というよりも、そもそも「メールを確実に届ける」ということについての責任分界点が不明瞭というのが正しい答えになるかなと思います。例えばWebシステムを作る場合、メールはあくまで付属機能になります。Webシステムを円滑に動かすための開発がメインなので、ことメールに関しては送信さえできればOKというくらいの認識なのだと思います。
―菱沼さんはリンクの「ベアメール」というクラウド型メールリレーサービスを担当されていますが、実際にエンジニアの方からお問い合わせが来ることはありますか。
そうですね。ベアメールへの問い合わせとして多いのは、大きく分けて2パターンあります。一つはメールを送信している担当者や、ECやWebサービスからのメールが届かないと顧客から問い合わせを受けるサポート担当の方など、エンジニアではないけれど「メールが届かない」という問題に実際に直面して困っている方々です。そしてもう一つがエンジニアの方で、利用者から「メールが届かない」というクレームを受けて、調査したけれども自分たちでは分からないのでメール専門のサービスに問い合わせるというケースです。
例えば自社で開発したシステムを自社で運用しているようなケースであれば、何かトラブルがあっても自社で解決するしかないので、まだ話は単純です。しかし、外部の開発会社に作ってもらったシステムで運用を始めたところ「メールが届かない」問題が発生してしまった、という場合に委託側の担当者が困ってしまうケースがよくあります。担当者からすれば「メールが送信できるように実装してもらったのだから、メールが届かないのはシステムの開発に問題がある」となりますし、開発したエンジニアからすれば「メールが送信できることは確認した。メールが届かないのは、送信しているメールに問題があるのではないか」となり、押し問答のようになってしまうんです。
―本来であれば、開発時にメールが届くところまで保証しなくてはいけないということでしょうか。
理想を言えばそうかもしれませんが、そう簡単に言い切れないところもメールの難しさです。メールが届かない要因は、メールサーバやメール送信機能を開発するエンジニアの領域以外にもたくさん存在しているからです。
例えば、メールの本文に記載したURLがブラックリストに載っていれば高確率でブロックされてしまいますし、メルマガを送る担当者が送信リストのクリーニングをせずに、すでに使われていないメールアドレスや購読拒否した人にずっと送り続けていると、これもメールの到達率を下げる原因になります。
「メールが届かない」原因は、メール送信環境やDNS設定などの技術的な面と、送信リストやメール本文の内容など送信方法の面、さまざまな要因が考えられるので、メールに関するナレッジがないと問題の切り分けも難しいかもしれません。とはいえ、やはり大きなウェイトを占めるのはメールサーバの設定や送信元IPアドレス、送信ドメイン認証やDNS設定など技術的な部分です。その辺りは、メール送信の機能を開発する機会のあるエンジニアの方は今一度気をつけてみてほしいですね。
「メールが届かない」原因は、メール送信環境やDNS設定などの技術的な面と、送信リストやメール本文の内容など送信方法の面、さまざまな要因が考えられるので、メールに関するナレッジがないと問題の切り分けも難しいかもしれません。とはいえ、やはり大きなウェイトを占めるのはメールサーバの設定や送信元IPアドレス、送信ドメイン認証やDNS設定など技術的な部分です。その辺りは、メール送信の機能を開発する機会のあるエンジニアの方は今一度気をつけてみてほしいですね。
2.到達率を大きく左右するIPレピュテーション
―メールを届けるために特に気をつけなくてはいけないポイントはありますか?
メールサーバを運用していく上で、注意しておかなくてはならないのが「IPレピュテーション」です。IPアドレスというのはインターネット上の住所にあたるものですが、そのIPアドレスがどのように使われているか、今までの実績をもとに評価した信頼性のスコアをIPレピュテーションと呼びます。
セキュリティソフトベンダーやインターネットサービスプロバイダ、携帯キャリアなどは、受信したメールの送信元IPアドレスのレピュテーションスコアをチェックして、メールを受信ボックスに届けるか、それとも受け取りを拒否するのかを判断します。IPレピュテーションのスコアが高ければメールは問題なく届きますが、スコアが低い場合は、受信ボックスにメールが届きにくくなるか、もしくはまったく届かなくなるかもしれません。
セキュリティソフトベンダーやインターネットサービスプロバイダ、携帯キャリアなどは、受信したメールの送信元IPアドレスのレピュテーションスコアをチェックして、メールを受信ボックスに届けるか、それとも受け取りを拒否するのかを判断します。IPレピュテーションのスコアが高ければメールは問題なく届きますが、スコアが低い場合は、受信ボックスにメールが届きにくくなるか、もしくはまったく届かなくなるかもしれません。
―なぜIPレピュテーションのスコアが低くなってしまうのでしょうか?
さまざまな要因から判断されるので一概には言えませんが、要するにスパマーと疑われるような行動をしているとレピュテーションスコアは下がってしまいます。突然大量のメールを送信したり、宛先が不明なメールが多かったり、タイトルや内容がスパムメールに類似していたり、受信者から迷惑メール報告をされたりなど、メールの送信者として評判が落ちるような行為はIPレピュテーションに悪影響があります。
―スパム行為などをしていなければレピュテーションは気にする必要はなさそうに感じますが、実際にはどのような問題があるのでしょうか。
スパムメールを送ってないから自分たちの会社は大丈夫と思っていても、IPレピュテーションには注意する必要があります。
まず、新しい環境からメールを送信しようとする際、もし今までメール送信に使用されていなかったIPアドレスを使うのであればIPレピュテーションは0からのスタートになります。何も評価されていないIPアドレスから突然数万通という大量のメールを送ってしまうと、これはスパマーがメールを送っているのではないかと疑われて、ブロックされてしまう可能性が高いです。
そういう場合は、徐々に送信するメールを増やしていって「このIPアドレスは、日常的にこれぐらいの量のメールを送っているので怪しくありませんよ。」と世の中に知ってもらう必要があるんです。これを私たちは「IPアドレスを温める」と表現しています。IPアドレスが温まっていれば一斉に数万通のメールを送っても大丈夫ですが、最初は数百通ぐらいからスタートして、1ヶ月から数ヶ月かけて最終的に数万通になるよう、時間をかけて送信実績を積んでいくことが必要になってきます。
そういう場合は、徐々に送信するメールを増やしていって「このIPアドレスは、日常的にこれぐらいの量のメールを送っているので怪しくありませんよ。」と世の中に知ってもらう必要があるんです。これを私たちは「IPアドレスを温める」と表現しています。IPアドレスが温まっていれば一斉に数万通のメールを送っても大丈夫ですが、最初は数百通ぐらいからスタートして、1ヶ月から数ヶ月かけて最終的に数万通になるよう、時間をかけて送信実績を積んでいくことが必要になってきます。
あと気をつけないといけないのが、AWSなどのクラウドサービスでIPアドレスを取得してメールを送信するケースです。たまたま取得した/割り当てられたIPアドレスが既にブラックリストに載ってしまっていたり、IPレピュテーションがとても低かったりすることがあります。便利で誰もが手軽に使えるクラウドサービス環境は、スパマーも利用していることがあるからです。ここ数年、AWSが管理しているIPアドレスからのフィッシングメールが増えたことで、セキュリティ基準を厳しく設定している企業ではAWSからのメールをブロックしていたりします。実際に「送信ドメイン認証もちゃんと設定しているのに、メールが届かない」という相談を受けて、調べたらAWSのIPアドレスを使っているからだったということがよくあります。AWSに限らず、IPレピュテーションについてはこういった問題があるということを意識しておいた方がいいですね。
―IPレピュテーションスコアを下げないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。
IPレピュテーションスコアをチェックできるサイトがあるので、まずは自社のIPアドレスに問題がないか状況を把握することをお勧めします。そして定期的に、スコアが低下していないか、ブラックリストに載っていないかは確認するようにすべきだと思います。もしブラックリストに載ってしまったら、早急に取り下げてもらうよう申請をしないと、メールの到達率がガクッと下がってしまいます。
あとはメールが相手に届いているかどうかをログでチェックすることも大切です。メールログには「こういう理由で届きませんでした」という情報が載っています。その理由を確認して、宛先が存在していない場合には今後送らないように対応をしないと、IPレピュテーションスコアが下がる要因になります。メールが届かない状態を長らく放置していると、IPレピュテーションがどんどん下がってしまって、最悪の場合そのIPに紐付いているドメイン自体がブラックリストに載ってしまう危険性もあります。そうなるとドメインを変えて運用していくとか、受信拒否の原因となりやすいブランド名や会社名のURLを削ってメールを届けるようにするとか、試行錯誤をしていかなければいけなくなります。こういう事態になる前に、ぜひ対策をしてほしいですね。
3.メール専門のエンジニアに早く相談する
―メールを届けるには、思っていた以上に多大な労力が必要となりますね。
そうなんですよね。メールを送るシステムを作ることはできても、それを運用していくとなると実はすごく大変です。しかもメールが届かない原因となる要素は、開発するエンジニアの領域以外にもたくさん存在している訳ですから。エンジニアも、メールを送信する担当者も、メールに関わる一人ひとりがその認識を持って、メールを確実に届けるための運用や仕組みを実現できたらいいですね。
―メールが届かなくて困っているエンジニアや事業者は、どのような対策をとるのがいいのでしょうか。
今日はIPレピュテーションを中心にお話ししましたが、メールをしっかり届けるためには気をつけるべきことが他にも沢山あります。だからこそ、メール配信サービスを利用することで、メールサーバの運用負荷を下げるということを考えてみてもいいと思います。
リンクが提供している「ベアメール メールリレー」も、メールの到達率の改善・大量配信に特化しています。普段の運用で大切なIPレピュテーションの監視運用をサービス側でしているので、ユーザはレピュテーションを意識せずメールを送信することができます。
リンクが提供している「ベアメール メールリレー」も、メールの到達率の改善・大量配信に特化しています。普段の運用で大切なIPレピュテーションの監視運用をサービス側でしているので、ユーザはレピュテーションを意識せずメールを送信することができます。
また、リンクではメールに問題点がないか診断する「迷惑メールスコアリング」というサービスも提供しているため、メールが届かなくて困っているというご相談を受けた際には、その診断を通してメールが届かない原因を探らせていただいたりもします。迷惑メールスコアリングでは、メールの文面からフォーマット、DNSの設定、ブラックリストに掲載されていないかなど多角的にチェックし、迷惑メールに判定される可能性とその原因を分析することができます。
それに加えて、各携帯キャリアやメールサービスの受信ボックスにちゃんと入るかどうかまでチェックできます。実はここ数年、携帯キャリアの迷惑メール対策というのはさらに強化されていて、メールログを見ると送信成功となっているのに、実際に受信側では迷惑メールとして振り分けられていたり、ブロックされていたりします。これはスパマーに対策をさせないためなのですが、メールログだけでは本当にメールが届いているのかを判断できなくなっています。その点も迷惑メールスコアリングでテストをすると、ちゃんと受信ボックスに入るのかはもちろんのこと、auは届いているけどdocomoは届いていないというところまで分かります。これはメール到達率を上げる上で大きなメリットだと思います。
それに加えて、各携帯キャリアやメールサービスの受信ボックスにちゃんと入るかどうかまでチェックできます。実はここ数年、携帯キャリアの迷惑メール対策というのはさらに強化されていて、メールログを見ると送信成功となっているのに、実際に受信側では迷惑メールとして振り分けられていたり、ブロックされていたりします。これはスパマーに対策をさせないためなのですが、メールログだけでは本当にメールが届いているのかを判断できなくなっています。その点も迷惑メールスコアリングでテストをすると、ちゃんと受信ボックスに入るのかはもちろんのこと、auは届いているけどdocomoは届いていないというところまで分かります。これはメール到達率を上げる上で大きなメリットだと思います。
―ベアメールは、技術的なことはもちろん、メール内容の問題点まで含めて改善の支援をしてもらえるんですね。最後に今メールで困っている方にメッセージをお願いします。
メールは誰もが使うものだからこそ、届くのが当たり前だと考えられています。だからこそ、メールが届かないとなるとそれだけでお客さまからの信頼を損なってしまい、大きな問題に発展することもあります。その一方でメールを確実に届けるための運用を続けていくのは、エンジニアの方にとっても大きな負担になります。ベアメールはメール到達率を改善・維持するためにトータルでサポートするサービスが揃っています。メールに関することでしたらどんな要望にも合わせられると思いますので、ぜひ、気軽に相談してほしいですね。
株式会社リンク
クラウド・ホスティング事業部 サービス企画部 部長
菱沼 憲司
株式会社リンクでエンジニアとしてベアメタルクラウド・ベアメールのサービス企画・開発、販売促進のためのプリセールスを担当する。