インサイドセールスの重要性と役割ーコロナ前と後では何が変わるのか
この記事では、営業担当者やインサイドセールスの体制構築を検討している担当者など、インサイドセールスの理解を深めたい方に向けて、その必要性と役割について解説しています。
新型コロナウイルスの影響もあり、急激にニーズが高まってきているインサイドセールス。withコロナ時代に営業成果を出すためのキーとして注目されていますが、具体的にどのような役割を担うべきなのか明確ではない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、営業担当者やインサイドセールスの体制構築を検討している担当者など、インサイドセールスの理解を深めたい方に向けて、その必要性と役割について解説します。
インサイドセールスが求められる背景
インサイドセールスはもともとアメリカが発祥で、広い国土をもつアメリカでは取引先を訪問することが非常に困難なため「訪問せずに電話やメールで営業する」ことから始まった営業手法です。比較的容易に顧客を訪問できてしまう日本ではあまり浸透していませんでしたが、コロナ禍の以前から徐々に注目を集めつつありました。インサイドセールスが現在求められている背景としては次のようなものがあります。
1.企業の購買行動の変化
ITの発展と普及に伴いWebが情報源の中心となったことで、誰でも簡単にインターネットから必要な情報を手に入れられるようになりました。
株式会社ITコミュニケーションズが実施した国内企業における購買プロセスの実態調査(参考:ITコミュニケーションズ調査結果)によれば、BtoB商材の製品やサービス検討のきっかけとなった主な情報源として、「Webメディア」を選択した回答者は43.8%であり、「展示会(17.8%)」「セミナー(14.6%)」「営業担当者14.2%」を大きく上回っています。
コロナ以前から顧客は自らWebで情報収集し検討を進めていく傾向が強まっており、もはや顧客の元へ定期的に通い、「御用聞き」をするような営業スタイルでは限界が来ていると言えるでしょう。
2.人手不足と働き方改革
進行する少子高齢化に伴い、日本における労働人口は今後も減り続けることが予測されています。日本政府が「働き方改革」を推進しているのは、労働人口減少による人手不足対策として一人ひとりの労働生産性を上げることが急務となっているからです。
2019年にエン・ジャパンが行った「人材不足の状況」についてのアンケート調査(参考:エン・ジャパン調査結果)によれば、「人材が不足している部門がある」と回答した企業は9割に上り、不足している職種のトップは「営業職」という結果が出ています。
人手が不足している営業現場では、今までのように見込顧客に1社1社訪問したり、見込み顧客のリスト作成からアポイント獲得、訪問、提案、受注、その後のフォローまで一貫して対応するような営業スタイルが難しくなっているのです。
3.サブスクリプション型ビジネスの増加
昨今のトレンドとして、買い切り型から毎月利用料を支払って利用する継続課金型「サブスクリプション」のビジネスモデルへとシフトしつつあります。
サブスクリプション型ビジネスは、①「多くの利用者に」②「長期間継続して利用してもらう」ことを前提としているため、基本的に1ヶ月あたりの費用は低額です。つまり営業は1件1件の売り上げは低い案件を大量にこなす必要があるため、今までのように手間ひまをかけず、出来るだけ営業活動を効率化することが求められます。そのため、特にサブスクリプション型ビジネスの営業はインサイドセールスとの相性が良いと考えられてい流のです。
4.非対面での営業ニーズの増加
新型コロナウイルスの影響で、仕事でもプライベートでも、Web会議システムなどを活用した「対面でのコミュニケーション」のオンライン化が一気に進みました。営業活動においても例外ではなく、Web会議システムはもちろん、オンライン商談に特化したツールが登場するなど、テクノロジーの進化と世情の変化により、営業のベーシックは変容の時を迎えています。
株式会社日経リサーチが2020年5月に実施したアンケート調査(参考:日経リサーチ調査結果)によると、「コロナ前と現在の購買にあたっての情報収集活動はどのように変化したか」という問いに対し、1番多く約半数を占めたのが「やりにくくなった」という回答で、その理由としては「取引先からの情報提供やコンタクトが減った」と選択した回答者が最も多かったとのアンケート結果が出ています。
展示会や対面での接点が減った分、情報の取りにくさを感じている見込み客との接点を掴むことができれば、営業としてはビッグチャンスです。そのためにも、非対面での営業活動にシフトしていくことが大きなカギといえます。
インサイドセールスのメリットと役割
インサイドセールスが求められる背景がわかったところで、インサイドセールスを導入することのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。ここではインサイドセールスに期待される役割と、メリットを解説します。
インサイドセールスの役割
まず前提としてお伝えしておくと、インサイドセールスが担うべき役割・業務範囲は、企業の事業内容や商材、組織によって異なってきます。こちらで紹介する内容は、あくまでインサイドセールスが対応すべき役割の一例であり、どのような取り入れ方がその組織にとってベストかはそれぞれ違いますので、組織への導入や現状見直しの参考としてお読みください。
見込み顧客へのアプローチ
インサイドセールスの主な役割はやはり架電業務でしょう。同じ架電業務でも、大きく分けると問い合わせや資料ダウンロードといったインバウンドのリードに対する応対であるSDR(Sales Development Representative)と、自ら能動的に顧客獲得を目指すアウトバウンド型のBDR(Business Development Representative)の2種類があります。日本で主に導入されているインサイドセールスはSDR型ですが、インバウンドのリード獲得が少ない・難しい場合はBDR型のインサイドセールスを検討してみると良いでしょう。
リードナーチャリング
BtoBビジネスでは購買プロセスにおける検討期間が長くなりがちなため、すぐに商談につながらないリードも数多くあるでしょう。しかし商談につながらなかったリードをそのまま放置してしまうと、具体的な導入検討・選定のフェーズに入ったことに気づかず、提案の機会も得られないまま競合他社に決まってしまったということが起こり得ます。
そこで定期的にコンタクトすることで、商談提案や成約につながっていないリードとの関係値を継続し、提案のタイミングを計ることもインサイドセールスの重要な役割となります。こうしたリードに対して継続的にコミュニケーションを取り、顧客の温度感(検討度)を高めて商談につなげることを「リードナーチャリング」(見込み顧客の育成)と言います。
リードナーチャリングにあたってはマーケティング担当とも連携し、架電以外にもメールマガジンなどを活用してWebコンテンツやセミナーなどの案内をするのも効果的でしょう。
ホットリード(温度感の高いリード)をフィールドに流す
インサイドセールスを導入している多くの企業では、インサイドセールスとフィールドセールスを分けている場合が多いでしょう。その場合、見込み顧客へのアプローチやリードナーチャリングを行っていく中で、具体的な導入の検討があり見込みが高そうなリード(=ホットリード)であると判断できた際に、そのリードをフィールドに受け渡し、以降具体的な提案やクロージングはフィールドの営業担当にまかせます。
フィールド側は、インサイドセールスがヒアリングした内容など残した履歴をもとにアプローチができるので、効率的にスムーズに提案に移れます。
顧客の声を集める
インサイドセールスは多くのリードに対しコンタクトするため、見込み顧客のリアルな声を収集するのに最も適しています。マーケティング担当は実際の顧客の意見や要望を聞く機会をなかなか持てないため、インサイドセールスがヒアリングした現場の生の声というものは非常に参考になります。例えば、どんな意図で資料ダウンロードがされたのか・顧客が疑問に思うことは何か・Webや資料に改善できる点はないか・どんなコンテンツやセミナーなら顧客が興味を持ちそうか・プロダクトやサービスのどんな点が不足しているか…など、自社のサービスやマーケティングのブラッシュアップに役立てられる宝の山です。商談につながらなかったとしても、インサイドセールスはできる限りその顧客の本音を探り、自社のサービス改善に活用できるようヒアリングに努めましょう。
インサイドセールスのメリット
インサイドセールスを導入することによって、下記のようなメリットが見込めます。
1.業務の効率化
インサイドセールスは顧客を訪問する必要がなく、架電業務に集中できるため、1日に多くの顧客へアプローチができ、時間の有効活用が可能です。
また、フィールドセールスは時間や交通費などのコストがかかりやすいため、できる限り熱量の高いリードの対応を優先したいところですが、従来は見込みが低いリードへの対応により、優先するべき顧客を後回しにしてしまうシーンもありました。インサイドセールスによって選別された質の高いリードに対して、フィールドセールスは提案とクロージングに集中することで、営業活動の効率化が見込めます。
2.案件の創出
インサイドセールスは、すぐに案件化しなかったリードに対し継続的なコンタクトをすることでナーチャリングを行い、見込み顧客の検討度をあたためて商談の創出につなげることができます。フィールドセールスではフォローしきれないような検討度の低い見込み顧客に対し、インサイドセールスであれば効率よく・幅広くアプローチすることが可能なのです。
3.商談化率・成約率の向上
インサイドセールスはMAやSFAなどを活用し、顧客情報の蓄積・分析・連携を行います。そしてフィールドセールスは、インサイドセールスから受け渡された見込み顧客の行動・対応履歴など各種情報を参考にした提案を行うことで、成約率の向上にも繋げることができます。また、フィールドセールスのアプローチ結果についてもインサイドセールスにフィードバックを行うことで双方に上質なナレッジが蓄えられていき、それらを組織内に循環させていくことによりさらなる効率アップに繋がります。
コロナ以降のインサイドセールスで成果を出すには
ここまで一般的なインサイドセールスのメリットや役割について解説してきましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け、日本の企業においても従来の営業スタイルからの変革を迫られています。ここでは、「ニュー・ノーマル」におけるインサイドセールスについて検討します。
コロナによる営業方法の変化
それではコロナ以前と以降では、営業方法に具体的にどのような変化が生じているのでしょうか。
コロナ前の営業ベーシック
コロナ以前は、対面し、同じ場所を共有することで関係値を築いていくことがメインでした。展示会・イベント・セミナーなどオフラインの場で新規リードを獲得することも多かったでしょう。見込み顧客へのアプローチも、インサイドセールスをすでに取り入れていた企業は別として、基本的にファーストアプローチから営業が顧客の元へ訪問し、情報提供や提案を行うことで信頼関係を構築していくという流れが一般的でした。
コロナ後の営業ベーシック
コロナ禍においては「対面」や人が多く集まるイベントが困難になったため、以前のような展示会やイベントで大量に新規リードを獲得することが難しくなりました。そのため見込み顧客の獲得については、オンラインでのイベントやウェビナー、そしてWebでの情報発信(コンテンツマーケティング、ホワイトペーパーなど)を通じてインバウンドの問い合わせを獲得することが非常に重要になりました。全般的なオンライン化によってイベントへの参加など情報収集のハードルは下がりましたが、気軽に参加できるからこそ検討度の低い層もこれまで以上に多くリードに含まれるようになり、中長期的なナーチャリングの重要度が増しています。また、見込み顧客へのアプローチも「対面」を避ける流れからオンライン商談が取り入れられるようになり、フィールドセールスも訪問せず半ば「インサイドセールス化」しているとも言える企業も多いのではないでしょうか。
オンラインセールスの台頭
このように、以前は対面がメインだった顧客との接点は、コロナ以降は非対面型に切り替えざるをえなくなっています。また、あらゆる企業が情報発信・リード獲得をオンラインにシフトした結果、Web上には情報がますます溢れかえるようになり、顧客は購買の意思決定が難しくなっているという側面もあります。そこで、情報収集や比較検討に悩んでいる顧客に対し適切なタイミングでアプローチを行い、顧客がまさに求めている情報を提供したり提案を行なったりすることは、非常に有効となります。「訪問」が難しいからこそ、メールや電話、オンライン商談といった手段を活用し、従来の「商談」よりライトな情報を行うことで顧客との関係性を築いていくということに「オンラインセールス」の真価があるのではないでしょうか。
営業プロセス全体での役割の見直し
これまで見てきた通り、ニュー・ノーマルに求められる営業活動は、リード(見込み客)獲得から商談に至るまでのプロセスにも違いがあります。従来の訪問営業をオンライン商談に単に置き換えるだけが「オンラインセールス」ではありません。オンラインセールスで成果を出すためには、マーケティング戦略の見直しからその後の営業プロセスの再設計が必要となるでしょう。
本記事で解説したインサイドセールスの役割は、コロナ以降の営業活動においてもますます重要性が増していくと考えられますが、マーケティングやフィールドセールスとの役割分担や連携が要となります。あるいは、インサイドセールス/フィールドセールスという垣根を払い、全面的にオンライン営業化することですべての営業を「インサイドセールス 化」するような選択肢もあるかもしれません。
これまで、ビジネスの歴史においては、世界金融危機やリーマンショックなどのピンチを経て「ニュー・ノーマル(これまでの常識が大きく変わること)」が幾度も生まれてきました。今回のコロナにおいても、「対面」が「非対面」になるという大きな社会的変革が起こっています。そのため「インサイドセールスの重要性と役割」も、時代の移り変わりにより変化していくことでしょう。重要なのは、その時々の状況にあわせて柔軟に組織や役割、手法を見直し、適応していくことではないでしょうか。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、営業手法の抜本的な改革が必要になった昨今。ハンコ制度の廃止や、2021年のデジタル庁設立など、業務内容がアナログからデジタルに移行するスピードは更に加速していくでしょう。これまでは「フィールドセールスのアシスト」と認識されがちだったインサイドセールスも、今後は営業活動の基幹となり、その役割は進化していくフェーズに差し掛かっています。時代の移り変わりに適応して営業活動の生産性向上に繋げるためには、自社におけるインサイドセールスの役割を明確にし、その力を最大限発揮していくことが重要です。