【今、専門家に聞く】PCI DSS完全解説 v4.0対応とベストプラクティス要件の課題とは?
PCI DSS v3.2.1の運用は2024年3月31日をもって終了し、それ以降は対象事業者にとってPCI DSS v4.0に基づく運用が求められます。なお、v4.0への技術的な対応に時間を要する要件や、運用設計や実施に大きな負担がかかる要件については、2025年3月31日までの猶予期間がベストプラクティス要件※として設けられています。 その期限が近づく中、ベストプラクティス要件対応に向けて何をすべきか。NRIセキュアテクノロジーズ 株式会社 決済セキュリティコンサルティング部 部長 須田 直亮氏と、株式会社リンク セキュリティプラットフォーム事業部 事業部長 滝村享嗣氏が、PCI DSSv4.0についてと、ベストプラクティス要件に関して、現在行うべきことについて解説しました。
1. ベストプラクティス要件のカウントダウンがスタート
須田さんはベストプラクティス要件に限らず、v4.0対応のどのあたりの難易度が上がったと感じていますか。
1つ目は『リスクベースの考え方の導入』です。
例えば、システムにおけるウイルス対策として定期的にマルウェアのスキャンを行う運用があったとします。v3.2.1では、実施頻度を決める上でのアプローチが定まっていなかったため、明確な根拠に基づくことなく、事業者で頻度(例えば、週1回など)を決めることができました。つまり、v3.2.1までは、頻度を決める上での具体的要件が明文化されていなかったので、事業者が任意に決めてその通りに実行するだけでも良かったのです。
ところが、v4.0からは、取り扱う情報の重要度やシステムの特性などに応じて、リスクを定量的に測ったうえで、事業者でスキャン頻度を決定すべきということが定められています。これは柔軟性がある一方で、自分たちでリスクを適切に評価したうえで、決めなければならないという難しさもあります。
2つ目は「カード情報漏洩の傾向を踏まえた新要件の追加」です。例えば、オンラインスキミングやフィッシングへの対策などが新たに要件として追加されています。
そして3つ目は「既存要件のアップグレード」です。例えば、監査ログの確認の要件は、これまで目視チェックによる対応方法でもその内容次第で要件を満たすことができていたものが、v4.0では自動化への対応が求められるようになっています。
この3つはv4.0対応の大きな特徴ですね。
引用元: JCDSCセミナー資料より抜粋
2. ハードルが高いベストプラクティス要件
「今、ベストプラクティス要件に対応するソフトウェアや仕組みを探しているのですが、何が有効なのか検証できないので本当に困っています。選定した理由を教えて欲しい」といった質問もよくいただきますね。
また、診断方法にも一部変更が加わり、特権アクセスを用いた検査方法によって、対象システムの詳細情報を取得する認証スキャンが必要になりました。脆弱性診断自体、相当の費用がかかるものでしたが、認証スキャンが加わったことでさらに費用が高くなる上に、追加での環境整備も必要になります。
それ以外では、フィッシング対策としてのベストプラクティス要件であるDMARCに関する問い合わせが増えました。経済産業省、総務省、そして警察庁からもDMARCの導入とポリシー強化が要請された※こともあり、関心が非常に高まっているのを感じます。
今後は、クレジットカード事業者として自社を守るだけでなく、ユーザーを守ることまで考える必要があります。そういう時代になってきたということだと思います。
3. 2025年3月31日に向けてPCI DSSの専門家に相談を
運用に関しても、自社の責任範囲や工数をかなり少なくすることができるので効率的です。実際に必要なソリューションを自社で開発し、維持運用するとなるとかなりの企業体力が必要ですし、すべての事業者ができるかと言ったら難しいですよね。「PCI DSS Ready Cloud」は、準拠への対応だけでなく、運用の負担を大きく軽減するという意味でも、選択肢の一つになり得るサービスだと思います。
専門家に相談すれば、スケジュールや予算、体制、多くのお客さまが抱える課題への対応など、さまざまな面でアドバイスがもらえます。
v4.0のポイントとして「リスクベースの考え方」の話をしましたが、良い意味で捉えれば、その会社の情報セキュリティに対する考え方や事業環境に合わせて柔軟な対応が選択できるので、まずは自社で抱えているセキュリティ課題や目指したい方向性をコンサルタントや専門的な知識のある方にぶつけてみると良いでしょう。
PCI DSSはクレジットカードの取扱いに関わる事業者の情報漏洩を防ぐためのものですが、会社全体の情報セキュリティに生かせる方針や取り組みが含まれています。そういった視点でPCI DSSに取り組むことで、自社の情報セキュリティの高度化にもつなげることができると思います。
NRIセキュアテクノロジーズ株式会社
決済セキュリティコンサルティング部
部長
須田 直亮
大手外資系ベンダーにて、クレジットカード会社や決済ネットワーク事業会社におけるミッションクリティカルシステムの基盤設計・構築・運用に従事。
2014年より現職。現在はセキュリティコンサルタントとして、PCI系全般(DSS/P2PE/TSP/3DS)の準拠支援や、暗号鍵の運用管理に関するリスク評価、QR決済サービスのリスク評価等の業務に従事している。
株式会社リンク
セキュリティプラットフォーム事業部
事業部長
滝村 享嗣
群馬県高崎市出身。1999年、新卒で大手商社(情報通信系サービス)に入社。
その後、ITベンチャーの営業責任者、ソフトウエアベンチャーの営業/マーケティング/財務責任者に従事。2011年にリンクに入社し、セキュリティプラットフォーム事業の事業責任者として、
クレジットカード業界のセキュリティ基準であるPCI DSS準拠を促進するクラウドサービスなどを企画・事業化している。