CentOS8終了とCentOS Streamへの移行で何が起こるの? 後継OS候補も紹介
CentOS8が2021年12月31日をもってサポート終了となり、今後CentOS projectは「CentOS Stream」へと移行することになりました。これにより、今までと同様の使い方はできなくなる可能性が高いでしょう。これまでCentOSは、有償Linux(Red Hat Enterprise Linux=RHEL)と同等の機能を無償で利用できるというメリットを持っていました。しかし、今後は移行先などを含めた調整が必要になるかもしれません。ここでは、CentOS8のサポート終了に関する情報や、CentOS Streamの概要、移行先候補のOSについて解説します。
※ 2022年1月7日に最新の情報にアップデートしました。
CentOS8の終了時期と影響
まず、CentOSの各バージョンの終了時期を整理しておきましょう。以下は、CentOSの各バージョンにおけるサポート終了期限です。
CentOSのサポート終了期限
バージョン | ライフサイクル開始日 | サポート終了日 |
CentOS 6 | 2011/7/10 | 2020/11/30 |
CentOS 7 | 2014/7/7 | 2024/06/30 |
CentOS 8 | 2019/9/24 | 2021/12/31 |
2021年4月時点で、CentOS6はすでにサポート期限が到来しており、CentOS7への移行が進んでいます。サポート終了後のOSを利用し続けることのリスクや、CentOS6からCentOS7への移行については、こちらの記事も参考にしてみてください。
CentOS 6を使い続けるリスクとCentOS 7移行時の注意点
2021年12/31以降も正式なサポートが提供されるのは「CentOS7」であることがわかります。したがって、CentOS8からCentOS7へ移行するという方法も考えられますが、移行の方法はアナウンスされていません。したがって、現状でCentOS8を使用しているならば、全く別のOSを探すか、CentOS Streamへと移行するかという2択になる可能性が高いでしょう。
CentOS Streamとは?これまでと何が違う?
CentOSはこれまで、有償Linux(RHEL)がテストを行い、安定版としてリリースした機能をそのまま利用できるというメリットを持っていました。つまり「CentOS=RHELの安定版クローン」であったわけです。しかし今後は、「CentOS Stream=RHELの開発ストリームのひとつ」になることが明らかになっています。
CentOS Streamが採用する「ローリングリリース」とは
CentOS Streamは「ローリングリリース」モデルのディストリビューションです。ローリングリリースとは、ソフトウェアを断続的に更新していく形を取り、いわゆる「バージョン」を用いて管理し、更新時には新バージョンを再インストールさせるような一般的なリリースとは対照的となります。
従来のバージョン管理による一般的なリリース(「固定リリース」)では、大規模なアップデートはスケジュールに沿って行われ、セキュリティパッチの配布やマイナーな更新は必要に応じて行われます。固定リリースは安定性に優れますが、開発された主要な改善が反映されるまで数ヶ月から場合によっては数年を要する場合があります。
これに対しローリングリリースでは、常にアップデートが行われるため、多くの場合一つ一つの更新内容が小さく、バージョン番号は付与されません。固定リリースに比べるとはるかに速く更新が行われるため、改善された最新の機能がすぐに利用可能になるというメリットがありますが、その一方でバグが発生する可能性も否めません。
CentOS Streamはローリングリリースモデルのため、RHELや従来のCentOSのようなマイナーバージョン(6.2、6.3など)は存在せず、yumリポジトリには常に最新のパッケージしか含まれないようになっています。ただし、メジャーバージョンは明確に区別されており、現在リリースされているCentOS Stream8を利用していたらいつの間にかCentOS Stream9になっていた、というようなことは起こりません。また、サポート期間については、対応するRHELのフルサポート期間(5年間)終了までとなります。CentOS Stream8については、対応するRHEL 8のフルサポートが2024年5月末までのため、そのタイミングでメンテナンスが終了します。
RHEL開発の一部となる「CentOS Stream」
CentOS StreamはFedoraと同じようにRHELの開発ブランチの一部という位置づけになります。これまでのCentOSは、正式リリースされたRHELのリビルド版という位置づけでした。「商用版として正式にリリースされた機能をサポート付きで、なおかつ無償で使用できる」という大きなメリットがあったわけです。しかしその流れはCentOS8で終了することになります。
ごく簡単にいえば「開発ストリーム→RHEL→CentOS」という流れが「開発ストリーム→CentOS→RHEL」という流れに変わるのです。
CentOS Streamの狙いとしては、RHELを利用しているソフトウェア開発者が開発環境として利用することを意識しており、将来的にRHELに搭載される機能を開発者に一足先に利用してもらうことで、素早いフィードバックを得て改善に活かすことが期待されています。
CentOS Streamでは常に最新パッケージしか提供されないため、バージョンや機能を固定して利用したい用途には向かないと言えるでしょう。たとえば、本番環境にはRHELを利用し、RHEL向けのソフトウェア開発環境でCentOS Streamを利用するという形を取れば、RHELに搭載予定の機能が先に使えるためメリットがあると言えます。
Fedoraとの違いは?
RHELのテスト用OSとしては、「Fedora」が有名です。そのため、「CentOS StreamとFedoraの役割が重複するのでは?」と考える方がいるかもしれません。そこで、FedoraとCentOS Streamの関係を簡単に整理しておきましょう。
Fedoraの位置づけは、「最新機能のテスト用OS」です。これに対してCentOS Streamは「Fedoraと正式版RHELの中間に位置するOS」と言うことができます。Fedoraでは先進的な機能を次々に搭載してテストしていくという方針が採られています。当然、その間にテストを行い、不具合やフィードバックを踏まえたうえで修正作業が行われます。こうしてある程度の目途がついた機能を持つバージョンが「次期RHELバージョンの候補」として分岐し、「CentOS Stream」として開発されるようになるわけです。そして、CentOS Streamとして1年ほど開発されたバージョンが、次の正式版RHELとしてリリースされるとのことです。
図にして表すと以下のようなイメージとなります。
CentOS Streamへの移行で注意すべきことは?
CentOS Streamへの移行においては、次のような注意点が挙げられます。
以前ほど安定性が保証されていない可能性が高い
従来のCentOSとは違い、CentOS StreamはFedoraに比べれば安定性重視のディストリビューションであるとは言え、「テスト中のOS」です。したがって、以前のように正式版RHELと同じような安定性を有するとは限りません。また、ローリングリリースモデルのためバージョンの固定ができず、本番環境や商用利用を想定した場合、従来のような安定性を確保しにくいことに注意してください。状況によっては、本番環境用のOSではなく、開発・テスト環境用のOSとして使うといった工夫が必要になるでしょう。
問題が発生した場合の対応
CentOS StreamはRHELと深い関係にありますが、あくまで商用の製品ではないため、Red Hatによるサポートなどは用意されていません。
しかし、CentOS Streamは、広くフィードバックを受け付けることで改善・開発をスピードアップすることが目的ということもあり、バグレポートや修正パッチを報告する仕組みが用意されています。
その時点での最新パッケージのみが対象となりますが、Red Hat Bugzillaでバグを報告すると、Red Hatのエンジニアがアサインされ、対応方針が検討されます。Red Hat Bugzillaを利用するにはアカウントが必要ですが、Red Hatのアカウントを利用するか、新規にメールアドレスで作成することも可能です。
CentOS8からの移行先候補は?
もしCentOS Streamへの移行が難しいと判断した場合は、できるだけ早く代替OSの選定に入るべきかもしれません。ここでは、CentOS8からの移行先を探すユーザーに向けて、移行先候補をいくつか紹介しておきます。
安定性重視
RHEL8
現状での最適解のひとつは「お金を払ってRHELに移行してしまう」ことかもしれません。RHEL8のライセンスを購入し、安定性とサポートを手に入れるという方法です。コスト面の折り合いがつくのであれば、最も現実的な移行先と言えるかもしれません。ただしこの場合はライセンス費用が重くのしかかるため、できることなら避けたいと考える管理者が多いのではないでしょうか。実際にCentOS8の終了に対して一部の利用者から反発があり、RHEL8の機能が一部無償化されるとの報道もありました。
具体的には「Red Hat Developer」プログラムが拡張され、以下のような利用が可能になります。
- RHELのサブスクリプションを保有している場合、無償でRHELの開発環境を使うことができる
- 本番運用目的で、最大16台でセルフサポート型のRHELを無償利用できる
- オンプレミス以外のAWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどでも利用できる
参考:https://japan.zdnet.com/article/35165365/
しかしこの開発者プログラムは1ユーザーでの利用に限られるため、複数ユーザーがログインする企業システムのOSとして利用するのは難しいかもしれません。
MIRACLE LINUX
MIRACLE LINUXは、サイバートラスト社が提供する日本国内唯一の企業向けLinuxディストリビューションです。RHELベースに開発され、CentOSとのバイナリ互換を維持しています。AlmaLinux提供元のCloudLinux社と同様に、元々RHELフォークをエンタープライズ向けに有償OSとして提供していましたが、この度のCentOSパッケージ提供の終了を受けライセンスフリーでの提供を開始しました。長期サポートを用意しており、MIRACLE LINUX8は2030年5月まで無償提供のアップデート、有償では2032年5月までのサポート提供が予定されています。商用OSとしての開発・サポート実績があり、希望の企業向けには有償の技術支援・サポートサービスも提供しています。日本語でサポートが受けられるという点が大きなメリットでしょう。
移行コスト重視
CentOS Stream 8
CentOS Streamへの移行は、単純な移行コストとしては最小の部類に入るでしょう。ただし、前述したようなCentOS Streamの性質上、運用するシステムによっては本番環境に適用するのが躊躇われるかもしれません。「正式な移行先が見つかるまでの橋渡し」として利用するならば、悪くない選択肢かもしれません。
RockyLinux
RockyLinuxは、CentOSプロジェクトの創設者であるグレゴリー・クルツァー氏が率いるRHELクローンのプロジェクトです。2021年6月時点では、事実上のCentOS代替プロジェクトと言って良いでしょう。RockyLinuxの公式サイトでは、「不具合も含めてRHELと100%の互換性を持つように設計されていること」「コミュニティ主導で開発されていること」などが明記されています。企業主導ではないためオープンで中立的だといえますが、誕生して間もないプロジェクトであることから、開発やサポートの実績が乏しく、本当に以前のCentOSのような運営が続けられるのかという疑問が残ります。しばらくはコミュニティの方針を注視しつつ、運営が安定してきたタイミングで移行する、という方法が良いかもしれません。
AlmaLinux
AlmaLinuxは、CloudLinux .incによって開発されたOSです。同社はホスティング事業者やデータセンター向けの有償Linuxディストリビューションである「CloudLinux OS」を提供しており、このノウハウを活用して「Project Lenix」という非営利のコミュニティを立ち上げました。また、「Project Lenix」に対しては、年間100万ドルの予算を投じる方針も明らかにしており、プロジェクトの資本面も盤石であることをアピールしています。
この「Project Lenix」の正式名称が「AlmaLinux」です。AlmaLinuxは、前述のRockyLinuxと同じくRHELのクローンとしてCentOSの代替となる予定とのこと。また、AlmaLinuxでは公式にCentOS8.3からの移行ツールを既に用意しており、いくつか注意すべき条件があるものの、ツールをダウンロードして実行するだけで移行が完了するため、移行コストを重視する場合有力な選択肢と言えるかもしれません。
ランニングコスト重視
ランニングコストを重視する場合は、次の2つが有望かもしれません。
・CentOS7
CentOS7は従来通り2024年6月末までサポートが続くので、CentOS7を利用している場合はそのまましばらく様子見するのが最前でしょう。CentOS8からCentOS7へのダウングレード方法は今のところ公式にはなく、全く新しい環境を作り直すことになるため移行コストは課題です。
・Ubuntu
また、Ubuntuは、比較的長期間のサポートが提供されることと使いやすさで優秀ですが、そもそもCentOSとは「流派」が異なる「Debian系OS」です。こちらも環境の再構築が必要なだけでなく、コマンドの体系なども大きく異なるため、移行のハードルはやや高いと言えるでしょう。
移行先OS候補一覧
ここまで挙げてきた移行先候補を表にまとめました。
OS | ポイント | サポート終了日 | サイトURL |
RHEL 8 | 安定性重視 | 2029-5-31 | https://www.redhat.com/ja/enterprise-linux-8 |
MIRACLE LINUX | 安定性重視 | 2030-5月まで(無償) 2032-5月まで(有償) | https://www.cybertrust.co.jp/miraclelinux-license-free/ |
CentOS Stream8 | 移行コスト重視 | 2024-5-31 | https://www.centos.org/centos-stream/ |
RockyLinux | 移行コスト重視 | 2029-5-31 | https://rockylinux.org/ja/ |
AlmaLinux | 移行コスト重視 | 2029年までのサポートをコミット | https://www.almalinux.org/ |
CentOS7 | ランニングコスト重視 | 2024-6-30 | https://www.centos.org/download/ |
Ubuntu Focal Fossa | ランニングコスト重視 | 2025年4月(通常) 2030年4月(ESM) | https://www.ubuntulinux.jp/ |
まとめ
ここでは、CentOS8の後継プロジェクトであるCentOS Streamの概要や、CentOS8からの移行先候補について解説してきました。CentOS8からCentOS Streamへの移行では、バグチェックと修正が完全ではないOSを使うことのリスクを意識すべきです。また、どの移行先が最適かは環境・予算・用途によって変わるため、ノウハウを持つベンダーへの相談を視野に入れつつ、移行先を選んでみてはいかがでしょうか。