MIRACLE LINUXとは? CentOS 8の後継OSの特徴とメリットについて解説
2021年12月31日をもってCentOS8がサポート終了となり、CentOS Projectは今後「CentOS Stream」へと移行します。CentOSはRHELクローンとして安定性の高いOSでしたが、今後はRHELの開発ストリームの一部となるため、これまでと同様の使い方ができなくなる可能性があります。そのため、CentOSの後継となり得る別のLinux OSへの移行を検討している企業も多いでしょう。本記事では、CentOS8のサポート終了に関する内容を踏まえ、CentOSの移行候補の一つである国産Linuxディストリビューション「MIRACLE LINUX」の概要・特徴・メリットなどについて解説します。
CentOS 8終了とCentOS Stream移行の課題
CentOS Linux 8のメンテナンスサポートが、当初予定の2029年5月31日から大きく前倒しされ、2021年12月31日をもって終了となりました。今後、CentOS projectは「CentOS Stream」へ移行することになりますが、CentOS 8がRed Hat Enterprise Linux(RHEL)のダウンストリームだったのに対して、CentOS StreamはRHELのアップストリームに相当するもので、その位置付けは異なります。CentOS Streamは安定性重視の方針で開発が進んでいますが、あくまで「テスト中のOS」となるため、CentOS Streamへの移行には以下のような注意点があると考えられます。
- 以前ほど安定性が保証されていない可能性が高い
- 問題が発生した場合のサポートが乏しくなる可能性がある
- ローリングリリースモデルのため、パッケージのバージョンを固定して利用できない
もしCentOS Streamへの移行が難しいと判断した場合、代替OSを選定する必要がありますが、移行候補として考えられるOSは下記の通りです。
- RHEL8
- Rocky Linux
- AlmaLinux
- MIRACLE LINUX
- CentOS 7
- Ubuntu
CentOS8終了とCentOS Streamへの移行については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせて確認してみてください。
「CentOS8終了とCentOS Streamへの移行で何が起こるの? 後継OS候補も紹介」
MIRACLE LINUXとは
CentOS Streamへの移行が困難と判断した場合の代替OSのひとつとしてMIRACLE LINUXが考えられますが、MIRACLE LINUXとはどのようなOSなのでしょうか? ここではMIRACLE LINUXの概要と特徴について解説します。
MIRACLE LINUXの概要
MIRACLE LINUXとは、サイバートラスト株式会社が提供する日本製のLinuxディストリビューションです。2000年6月に日本オラクルとNECにより設立されたミラクル・リナックス社(現:サイバートラスト社)により、業務用からエンタープライズ向けを対象としたOracle Databaseの安定稼働を目的として開発が開始されました。2001年5月にリリースしたVersion2.0からRHELベースとして作られ、2012年1月にリリースされたVersion6.0からは完全なRHELクローンとして作られています。2021年12月時点での最新バージョンは8.4となっています。
国産のRHELクローンとして有名なMIRACLE LINUXは、当初は有償ライセンスの商用OSでしたが、CnetOS8の終了を受け、最新の8.4から無償提供すると発表しました。そのため、現在、CentOS8からの移行先候補として脚光を浴びているOSです。
MIRACLE LINUXの特徴
MIRACLE LINUXの特徴は下記の通りです。
- RHEL/CentOSと100%の互換性
- 唯一の国産商用Linuxディストリビューション
- CentOS 8からの移行をサポート
RHEL/CentOSと100%の互換性
MIRACLE LINUXは、CentOSと同様のRHELのクローンOSであり、CentOS との 1:1 バイナリ互換(ABI 互換)が保証されているディストリビューションです。リリースバージョン名、ファイル名などは RHEL に原則揃えられています。
唯一の国産商用Linuxディストリビューション
MIRACLE LINUXは、21年の歴史を持つ唯一の国産商用Linuxディストリビューションです。現在、サイバートラスト社がMIRACLE LINUX 8.4のディストリビューションとサポート、各種情報提供を包括的に行っています。日本国内で開発・サポートしているため、技術サポートも日本国内で完結して対応可能です。国内のエンジニアによる的確で高品質なサポートを長期間にわたって提供できる強力なサポート体制があります。
CentOS 8からの移行をサポート
MIRACLE LINUXは、CentOS8からの移行を行うユーザー向けに移行ツールを提供しており、日本語による移行ツールマニュアルも提供されています。また、有償サポートを利用している場合は移行に関しての問い合わせ・技術支援も受けることができます。
MIRACLE LINUXのサポート期限
MIRACLE LINUX8のサポート期限は下記の通り(※1)です。当初予定されていたCentOS8のサポート期限である2029年12月よりも長く、AlmaLinuxやRocky Linuxといったその他の移行先候補OSに比べ、最も長いサポート期間を予定しています。
- 原則、パッケージ提供期間はメジャーリリース後 10 年。
- MIRACLE LINUX 8 無償提供のアップデートは 2030 年 5 月まで
- MIRACLE LINUX 8 有償提供の延長サポートでは 2032 年 5 月まで
※1 参考:MIRACLE LINUX公式サイト「FAQ」https://www.cybertrust.co.jp/miraclelinux-license-free/
MIRACLE LINUXのインストール方法
MIRACLE LINUXは簡単に導入できるのでしょうか。MIRACLE LINUXのインストール方法と、CentOS8からのマイグレーション(移行)方法について解説します。
MIRACLE LINUXのインストール方法
MIRACLE LINUXのインストールイメージは、公式サイト(https://www.cybertrust.co.jp/miraclelinux-license-free/)の「ダウンロード」からダウンロード可能です。ダウンロードページからイメージファイルのリンクをクリックするとダウンロードが開始されます。インストール手順は日本語のインストレーションガイドが用意されている(※2)ため、ガイドに従ってインストールを実行すれば、これまでRHELやCentOSのインストールを経験した人であれば問題なくインストール可能でしょう。
※2 参考:MIRACLE LINUX8.4 インストレーションガイド https://www.miraclelinux.com/support/docs/ml8_4_installation_guide
CentOS 8からのマイグレーション方法
MIRACLE LINUXではCent OS8からの移行ツールを提供しており、このツールを利用することで既存のCentOS8から簡単に移行できます。移行ツールは公式サイトの「移行ツール」からダウンロードが可能です。CentOS 8.0〜8.5のいずれのバージョンでも移行ツールを利用できるのはメリットの一つだと言えるでしょう。
公開されている移行ツールのスクリプトを実行したい環境へダウンロードし、root権限で実行します。スクリプトには以下の3つの動作モードが用意されているため、用件に合わせたモードを選択し実行してください。
- 通常の切り替えモード(core):OSに設定されたリポジトリファイルに対し、CentOS8からMIRACLE LINUX8へのリポジトリの切り替え処理を行います。またRPMパッケージの電子署名と対応する公開鍵を登録します。このコマンドの実行時には、OSにインストールされている一部のパッケージを削除し、入れ替えます。
- 最小限の切り替えモード(minimal):このモードでは、リポジトリの切り替えと公開鍵の登録のみを行います。ブートローダーやパッケージの切り替えを移行時に実施したくない場合に選択してください。実行後、パッケージの入れ替えやアップグレードは任意のタイミングで可能です。
- ブートローダーの再設定モード(reconfigure-bootloader):動作モード2でリポジトリの切り替えを行った後、ブートローダーなどを手動で更新した際に使用するモードです。OS設定の再設定を単独で実行します。
さらに詳しい内容は、日本語の移行ツールマニュアル(※3)を確認してください。
※3 参考:MIRACLE LINUX8.4移行ツールマニュアル https://www.cybertrust.co.jp/miraclelinux-license-free/docs/ml84-migrationtool-manual.pdf
移行ツール利用の前提条件
MIRACLE LINUX8.4移行ツールを利用する際の前提条件は下記の通りです。
- 移行元の動作対象OSはCentOS Linux 8.0〜8.5 (※ CentOS Stream 8 は対象外)
- 移行元のサーバーからインターネットにアクセスできること
- 十分な作業時間を確保しておくこと
移行ツール利用の注意事項
MIRACLE LINUX8.4移行ツールを利用する際の注意事項は下記の通りです。
- 導入しているライセンス製品のサポート状況を確認しておくこと
- 移行ツールを使用する前に必ずバックアップを取得しておくこと
- SecureBootがenabledになっている環境では移行できないため、実行時にはdisableにしておくこと
- CentOS 8.5から移行する場合は、Update実施時に新しいPKGが存在するものだけUpdateされる
- 移行後はLinuxカーネル等の変更箇所を確認し、MIRACLE LINUXに変更されていることを確認する
- ディレクトリやファイルのパーミッションの変更状況を確認し必要に応じて修正する。
MIRACLE LINUXのメリット
MIRACLE LINUX以外にもCentOSの後継として考えられるOSはありますが、MIRACLE LINUXを導入するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは以下の通り、MIRACLE LINUXを導入するメリットについて解説します。
- 国産ディストリビューションとしての豊富な実績
- Linuxディストリビューションとしての高いシェア
- 日本語による高品質な技術支援と超長期サポートの提供
国産ディストリビューションとしての豊富な実績
MIRACLE LINUXは、唯一の国産ディストリビューションとして 21 年、RHELクローンとして18年の開発・販売・保守の実績を持っています。Kernelのメンテナーなど高度な技術を持つエンジニアを含む、約120名のLinux・OSSエンジニアが在籍しており、盤石な開発・保守体制があります。
Linuxディストリビューションとしての高いシェア
MIRACLE LINUXは、2019 年度に日本国内で出荷されたプリインストール版 Linux のディストリビューション・バーション別出荷台数としてサイバートラストが提供する Linux OS「MIRACLE LINUX」が全体の 57% のシェア(※4)を達成しています。高いシェアにより、多くのフィードバックを受けて信頼性の高い開発・サポートへ活かすことができています。
※4 参考:サイバートラスト プレスリリース https://www.cybertrust.co.jp/pressrelease/2021/0916-miraclelinux-license-free.html
日本語による高品質な技術支援と超長期サポートの提供
OS自体は無償で利用でき、リポジトリや各種情報が公開されていますが、希望する場合は有償の技術サポートを利用することが可能です。障害解析や技術問い合わせ、日本語によるエラッタ情報(※5)の提供や脆弱性のアラート通知を行うほか、カスタマーポータルの提供や、標準の10年を超える延長サポートの提供などを予定しています。
※5 エラッタ情報:セキュリティ修正・バグ修正・機能追加・およびその他の更新情報のこと
まとめ
OSは、企業のシステムを支える重要なインフラのひとつです。CentOS 8のサポート終了に伴い代替OSへの移行を検討する企業も多いと考えられますが、OSの変更はシステムへの影響が懸念材料となります。また、移行後のサポートはどうなのか、プロジェクトの継続性に懸念はないかなど長期的な視点での検討も重要です。MIRACLE LINUXは、CentOSの後継OSの中で唯一の国産Linuxディストリビューションです。商用OSの開発・保守の実績と、日本語でのサポートが受けられるという点で有力な候補だと言えます。その他の候補とも比較しながら、自社システムやニーズに合わせたOSを選定するようにしましょう。
ベアケアでは、MIRACLE LINUXの有償サポートを月極で利用できる「CentOS 8 救済サービス」を提供しています。すでに CentOS 8 でシステムを構築済みの場合も本サービスを利用することで、CentOS 8 から MIRACLE LINUX への移行に関する技術的サポートについてはもちろんのこと、最長 2032 年 1 月までの長期サポートを受けることができます。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。