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カスタマーサクセスを自社で導入するために 第一人者が重要視する 「組織全体で考え抜いた、自社のサクセス」

カスタマーサクセスを自社で導入するために 第一人者が重要視する 「組織全体で考え抜いた、自社のサクセス」

前回の記事では「カスタマーサクセスとは何か?」という基礎知識から、カスタマーサクセスを実現するために必要な考え方を教えていただきました。続編となる今回は、「カスタマーサクセスをどのように導入すればいいのか」をテーマに、株式会社リンクでカスタマーサクセスツールを提供する内木場健太郎が、カスタマーサクセスの第一人者であるバーチャレクス・コンサルティング株式会社の森田智史さんにお話を伺いました。

▼前回の記事はこちらからご覧ください

カスタマーサクセスの基礎を学ぶ 第一人者に聞く「サイエンス」と「アート」という考え方

カスタマーサクセスの基礎を学ぶ 第一人者に聞く「サイエンス」と「アート」という考え方

「カスタマーサクセス元年」と言われた2018年から4年。カスタマーサクセスという言葉を耳にする機会は増えたものの、「カスタマーサクセス」について詳しく知っている人はまだまだ少数派です。カスタマーサクセスを正しく理解するために、株式会社リンクでカスタマーサクセスツールを提供する内木場健太郎が、カスタマーサクセスの第一人者であるバーチャレクス・コンサルティング株式会社の森田智史さんにお話を伺いました。

1.どうして日本でカスタマーサクセスは広がらないのか?

内木場 カスタマーサクセス元年と言われた2018年からすでに4年が経とうとしています。じわじわと広がっている感覚はあるのですが、思っていたよりも浸透が遅いというのが私の率直な感想です実際に現場レベルで言うと、SaaSベンダーのような、組織として若い会社はカスタマーサクセス導入に非常に前向きですところが、同じサブスクビジネスでも営業部隊がしっかりと揃っている歴史のある会社は、依然として新規のお客さまを獲得することがメインとなっていて、カスタマーサクセスにはまだ目が向いていないという印象があります。

森田 現場レベルだけではなく、経営層でもバラツキが大きいと思っています。バーチャレクスでは毎年「カスタマーサクセスに関する実態調査」を実施しています。5月に2022年版を発表しましたが、この調査で「カスタマーサクセスとは何か」を理解している人の割合は、わずか2.6%しかいませんでした調査も4年目を迎えますが、大きな変化はありません。多少は知っている人の割合は毎年微増(今年は12.0%)してはいるものの、カスタマーサクセスという概念がまだ正確に浸透していないことで、経営層にとっては「カスタマーサクセスって何?それをやると儲かるの?」という直接的な利益のあるなしだけの話になってしまいがちです。カスタマーサクセスに取り組んだからといって、一足飛びに利益が出るかというと、それを証明するのはすごく難しい。もちろん、カスタマーサクセスに取り組んだ結果、NPS(顧客推奨度:顧客ロイヤルティを測る指標)が上がり、継続率が上がり、LTVが上がる、という話をはじめ、収益貢献の論理、そして実績は多数あります。が、VUCA(Volatility<変動性>・Uncertainty<不確実性>・Complexity<複雑性>・Ambiguity<曖昧性> の要因により、現在の社会経済環境が極めて予測困難な状況に直面しているという時代認識)と言われる変化が激しいこの時代、他にさまざまな経営課題が並走している中で、最優先でそこに投資をするかというと、“勘所のある”所が優先され、どうしても後回しになってしまうのも理解はできます。

内木場 森田さんのおっしゃる通りで現場が盛り上がっているけれど、経営層に話を持っていくと、ROI(投資収益率:投資に対してどのくらいの利益が出たのか)を出してほしいという話になって頓挫したり、逆にトップが「これからはカスタマーサクセスが重要だ、カスタマーサクセスを進めるぞ」と指示はしてくるけど、現場は今の業務で手一杯だから進まない、何から進めるべきか分からないということもよくあります。

森田 カスタマーサクセスが多層的なものである以上、現場と経営層の双方の理解が必要です。カスタマーサクセスに取り組むときに、現場と経営層が同じ方向を向くことができていない会社がすごく多いんだろうな、という印象があります。
森田 前述の弊社調査では、カスタマーサクセスを導入した会社の半数以上が「売上が伸びたか」という問いに対して「YES」と答えています。やはりちゃんとやることをやれば効果はあると考えられます。
カスタマーサクセスを導入するとLTVがなぜ上がるのかということをもう少し構造的に説明すると、前回お話ししたように“解約数を減らし、契約継続を増やすから”というのが基本の考えです。これを「カスタマーサクセス1.0」と呼んでいます。“青本”の原著者である米Gainsight社の調査においては、カスタマーサクセス専任チームが存在する企業は24%の解約率低減に成功しているというデータもあります
 最近はそれをさらに進めた「カスタマーサクセス2.0」の世界が始まっています。それは、解約率を下げて契約継続を増やすだけではなく、日常的な顧客とのコミュニケーションを通し、顧客からニーズや課題をヒアリングすることで、アップセルやクロスセルを行うことができるはずだという考え方です。「カスタマーサクセス1.0」の状態をクリアした、カスタマーサクセスの先駆者とも言える企業では、既にこのテーマに意識的・意欲的に取り組んでいます。最近日本でも、「カスタマーマーケティング」といった言葉が出始めていますが、それもこの一環と言えます。
 ちなみに、さらにその先、お客さまとより密接につながったその行き着く先は何かと言うと、お客さまのファン化です。ある意味今見えているカスタマーサクセスにおける“最終ゴール”と言えるかもしれません。2nd Order Revenue(セカンドオーダー・レベニュー:前職で好んで使用していたサービスを転職先でも契約すること)という言葉がありますが、これを実現できればファンが新しいお客さまを呼び込んでくれるようになります。

内木場 リンクでも先日カスタマーサクセスに関する意識調査を実施したところ、カスタマーサクセスに取り組んでいる企業のおよそ65 %が効果を実感しているという結果が出ました。効果があることは分かっているのに、なかなか広がらない。そこにジレンマを感じてしまいます。

森田 やや極端にいうと、これまで、多くの企業では、完成した商品をより多くのお客さまに届けることが成長のエンジンでした。そして、その中心的役割を担うのが、営業です。営業は、如何に多くのお客さまにアプローチし、売り上げることがミッションであり、評価指標です。従って、販売後、お客さまがどれだけ満足しているのか、何か困っていることはないかといった、いわゆる顧客の声を拾い活かすという“カスタマーサクセス的”活動に時間を割くよりも、別のまだ成約できていない見込客へのアプローチを優先するというのは至極当然です。そして、それが功を奏している間は、業績は成長し続けるため、そのスタイルを変える必然性を感じない。もしくは感じていても、変えることで業績が悪化することを恐れ変えきれない。これが、先ほど内木場さんが触れられていた、営業力のある会社が、新規獲得偏重のままカスタマーサクセスに食指が動かない力学だと思います。
その傾向は大企業になればなるほど強い。分業化を通した生産性向上こそ大企業が大企業たり得る理由であり、そういう会社において、いざ全社でカスタマーサクセスに取り組もうとすると、大掛かりかつ抜本的に構造を変える必要があるため、やはりすごくハードルが高い。連綿とした歴史、成功体験がある大企業では、当然変化を嫌う保守的な人も一定数いるはずで、そんな人達も含め、カスタマーサクセスを浸透させていくためには、相当の覚悟と根気が必要なことは想像に難くはないですよね。
 
内木場 かつて日本はいいものを作っていれば、自然と売れるという考えを多くの企業が持っていました。それだけでなく、お客さまの声を聞き成功を届け続けなくてはいけない時代に変わってきた。
そのために企業としてどうあるべきか、今後何をするべきかを考えなくてはいけませんね。

森田 そうなんです。企業が持続的に成長していくためにはお客さまに選ばれ続けなくてはいけません。前篇でもお話した通り、これからの時代、特に日本においては、人口減に伴い多くの業界で一定の市場縮小が避けられません。そんな中では、新規獲得偏重、売って終わりの関係から脱却し、売ってからが始まりの関係の深化を重視する。
具体的には、お客さまにどれくらいサクセスを届けられているのか、リアル・デジタル双方の接点を通じ得たお客さまの情報をデータドリブンに検証する。“永遠のベータ版”という古くて新しい言葉がありますが、商品・サービスに反映しニーズを充足し続けることで、お客さまに選ばれ続ける。まさにデジタルトランスフォーメーションそのものとも言えますが、その難しさ・苦しさが分かっているからこそ、経営者の多くがカスタマーサクセスの導入に二の足を踏んでいるという状況もあると思います。

2.カスタマーサクセスはどう始めればいいの?

内木場 リンクで実施した意識調査を見ても、今後カスタマーサクセスに取り組んでみたいという人は非常に多いのです。でも、実際に進めるとなるとみなさんノウハウがないことに困っています。WEBで検索したり、書籍を探したりすると大手企業のキラキラとした成功事例はいっぱい出てきます。でもこれからカスタマーサクセスに取り組もうという人たちの事例はほとんど見当たりません。まずはどこからスタートすればいいのでしょうか。

森田 繰り返しになりますが、やはり大事なことは「自分達にとってのカスタマーサクセスとは何なのかをきちんと考える」ということではないでしょうか。自社のお客さまのリスト、声を眺め聞きつつ、自分たちが提供する価値とは何か、価値を提供するお客さまとは誰か、自分たちはなぜその価値を提供するのか、そういった内なる問いへの答えを見つけ出すことだと思います。それが全ての起点であり、基礎、根幹になるので。
内木場 やはり哲学である「アート」を考えることが大切なんですね。

森田 はい。ただ、「アート」だけをずっと考えていても、前には進みません。やると決めて一歩目を踏み出すことが重要です。また、理想的には、青本のカスタマーサクセス実践の10原則にもあるとおり、「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」のが望ましい“スタート”です。
ただ、経営層の役割は、トップダウンで進めるぞという“号令”をかけて終わりではありません。停滞しているのであれば、なぜ進まないのだと憤るのではなく、カスタマーサクセスの重要性を社内に説き、空気感や文化を形成する働きかけを行う、カスタマーサクセス部門をつくって組織を整えるといった「サイエンス」についても同時に進め、主体的に会社全体を巻き込み、現場に、お客さまと向き合う“最前線”に落とし込んでいく必要があります。

 ただ、その落とし込み方にも工夫が必要です。例えばスタートアップ系の企業においてカスタマーサクセスが最優先かと言えば、YESでありNOでもあります。リソースが限られているスタートアップの場合は、まずはお客さまを獲得しないと始まらないですよね。一方、それだけでいいかというとそうではなくて、裏側でちゃんとカスタマーサクセスも考えておかないといけない。スケールしたときにどうするんだ、もしくはスケールさせる上で必要なカスタマーサクセスって何かを考えておかないといけない。具体的に言うと、マーケティングをやって認知を高め、リードをたくさん作りました。営業が頑張ってお客さまをたくさん獲得しました。しかし、そのお客さまが求めるものと自社の提供するサービス(≒価値)が一致しなければ、解約や離脱が相次ぎ、自社の経営が成り立たなくなってしまった…ということになりかねません。
 自分たちは今この瞬間何をやるべきなのかをちゃんと考え、その中でカスタマーサクセスをここまでやるというものを決めたうえで、全社で合意する。一体感を醸成することがとても大事だと思います。
 
 カスタマーサクセスに限った話ではないですが、初めての取り組みに際して進め方が分からない、迷うというのは当然のことです。だからこそ、すべてを自分たちでやりきらなきければいけないと考える必要はないと思います。我々のような外部のコンサルタントの知見だったり、内木場さんたちが提供しているカスタマーサクセスツールだったりを上手く使ってもらえればなと思っています。それこそが、カスタマーサクセスというマーケットをつくることをミッションとして持っている私や内木場さんができることであり、すべきことではないでしょうか。

内木場 確かにノウハウを持っている人たちから情報を集めながら、カスタマーサクセスを組み立てていくことって本当に重要だと思います。この対談を読んで、カスタマーサクセスに取り組んでみたいとか、興味をもったから話を聞いてみたいという人はぜひ、気軽にお問い合わせいただければ嬉しいですよね。森田さんからカスタマーサクセスに必要な「アート」と「サイエンス」というとてもいい言葉を教えてもらったので、この言葉を使いながら、カスタマーサクセスをどんどん広めていきたいと思います。今回はありがとうございました。

顧客の "いま" を把握し、最適なカスタマーサクセス活動を支援 | CustomerCore(カスタマーコア)

顧客の "いま" を把握し、最適なカスタマーサクセス活動を支援 | CustomerCore(カスタマーコア)

カスタマーサクセスに必要なあらゆるデータを統合・可視化し、顧客の状態変化をシステムで捕捉。CustomerCore(カスタマーコア)は顧客ロイヤルティを高める活動を支援するWebシステムです。

森田 智史<br>
バーチャレクス・コンサルティング株式会社<br>
常務執行役員 ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長

森田 智史
バーチャレクス・コンサルティング株式会社
常務執行役員 ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長

CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。現在は、コンサルティング案件全般を所管するとともに、自社デジタルマーケティング領域の事業拡大のほか、RPAソリューションなど新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス―サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

内木場健太郎<br>
株式会社リンク

内木場健太郎
株式会社リンク

クリエイティブ業務からキャリアをスタート。広報宣伝部門、マーケティング部門の立ち上げ、ホスティング事業責任者を経て2019年よりカスタマーサクセス支援システム「CustomerCore」の事業開発を担当。サブスク型/ストック型ビジネスの20年以上の経験をもとに、さまざまなBtoB企業のカスタマーサクセス活動の効率化を支援している。