
【CSのプロが伝授】 カスタマーサクセスからビジネスに役立つノウハウを学ぶ 「カスタマージャーニーマップ(CJM)」とは
カスタマーサクセスの設計から実際の業務まで深く入り込み、トータルで支援する新サービス「CustomerCore」のアドバイザリーが、すべてのビジネスで明日から活用できるノウハウを伝授するシリーズ。第2回は「カスタマージャーニーマップ(CJM)」についてレクチャーします。
1.CJMの作成・活用はなぜ必要なのか
―カスタマーサクセスWebセミナーで「知識で終わらせない!実践で輝くカスタマージャーニーマップ(CJM)作成の秘訣」を開催されていますが、セミナーのテーマにCJMを選んだ理由を教えてください。
まず、カスタマージャーニーマップ(以下CJM)はカスタマーサクセス(以下CS)で用いられる手法で、その名前のとおり、お客さまがサービスを知り、購入、活用するまでの道のりを可視化したものです。
CSの指南書には、必ずCJMを作りましょうと書かれているため、ほとんどのCS担当者は過去に一度はCJMを作ったことがあるはずです。ところがその後も活用している人はごく一握りで、「作ってはみたものの活用方法が分からなかった」とか、「効果がなかったので作らなくなった」という声が圧倒的に多く、ほとんどのCJMが陳腐化しています。このような状況になっているのは、CJMの本質を理解している人がまだまだ少ないことが原因です。
そこでCJMについての知識を深め、しっかりと活用してもらえるように、CJMをテーマに選びました。
そこでCJMについての知識を深め、しっかりと活用してもらえるように、CJMをテーマに選びました。

―どうしてCJMの作成が必要なのでしょうか。
CSを進めていく上で大前提となる顧客理解を深めるために作成が必要です。CJMの作成は開発者目線ではなく、お客さま目線で考えることが大切です。各フェーズでのユーザー体験やどんな感情を抱くのかまで踏み込むことで自社サービスの課題を明らかにし、お客さまの満足度を高めるためにどんな対応をとるかまで落とし込みます。CJMを作ることで、顧客との接点や時系列ごとの心理状況の仮説が立てやすくなり、顧客との接点ごとに適切なマーケティング施策を実行できます。
またCJMの大きなメリットは、関係部署が共通意識を持つことができる点です。
またCJMの大きなメリットは、関係部署が共通意識を持つことができる点です。
サービスの提供には営業や開発などさまざまな部署が関わります。部署間を越えた複数の関係者が関わるプロジェクトでは、関係者間の共通認識を揃えておくことが大切です。その基準となるのがCJMです。どういう優先順位でサービス開発をするのか、どういうアプローチをして契約に結びつけるのかなど、CJMによって認識が統一され、目指す目標に対して一貫性のある施策を打つことができます。
顧客理解と事業理解の2つの役割を持つCJMは、まさにビジネスにおいて最も重要なツールの一つと言えます。
2.活用されるCJMの作り方
―セミナーでも「よくある悩み」として言及がありましたが、CJMが活用されなくなってしまう理由を教えてください。
これには大きく2つのパターンがあります。一番多いのが、CJMを作ったことで満足しているパターンです。
先述したとおりCJMを作成する目的の一つは、顧客理解を深めるためです。おそらくCJMを作ったときは顧客理解を深めることができていたはずです。しかし、お客さまの状況は時間が経つにつれ変化します。それに合わせてCJMもブラッシュアップをしていく必要がありますが、実際は数年前に作ったままで一切更新していません…というケースがほとんどです。現在のお客さまの姿と大きくズレてしまったCJMは役に立たないため、日頃の業務に活用されず、陳腐化してしまいます。
先述したとおりCJMを作成する目的の一つは、顧客理解を深めるためです。おそらくCJMを作ったときは顧客理解を深めることができていたはずです。しかし、お客さまの状況は時間が経つにつれ変化します。それに合わせてCJMもブラッシュアップをしていく必要がありますが、実際は数年前に作ったままで一切更新していません…というケースがほとんどです。現在のお客さまの姿と大きくズレてしまったCJMは役に立たないため、日頃の業務に活用されず、陳腐化してしまいます。
もう一つは、ミニマムで作ろうと考え、CS部門内だけで作成してしまうパターンです。
本来、社内の基準書であるCJMは、開発、営業、マーケティングなどの他部署と連携がとれていないと意味がありません。ときには時間やリソースの関係でCS部門だけでCJMを作ることもあると思いますが、その場合でも作成後に他部署の意見を聞いた上で修正を加え、完成したCJMを必ず共有する必要があります。これができていないと誰も使わないCJMとなってしまい、社内の基準としての役割を果たさなくなってしまいます。
本来、社内の基準書であるCJMは、開発、営業、マーケティングなどの他部署と連携がとれていないと意味がありません。ときには時間やリソースの関係でCS部門だけでCJMを作ることもあると思いますが、その場合でも作成後に他部署の意見を聞いた上で修正を加え、完成したCJMを必ず共有する必要があります。これができていないと誰も使わないCJMとなってしまい、社内の基準としての役割を果たさなくなってしまいます。
―活用されるCJMを作成するためには、どうしたらいいのでしょうか。
CJMを作成する前段階からどのように社内で共有し、ブラッシュアップしていくのかを考えておくことが重要です。私のおすすめは、「CJMの作成をプロジェクト化する」ことです。
通常、CJMの作成はCSの担当者がリーダーになることが多いのですが、私がコンサルタントで入っている会社では、その事業全体の責任者である事業部長やビジネスサイドの役員など、上のレイヤーの方に旗振り役をお願いし、CJM作成をプロジェクト化してもらうようにしています。
CJMを作る作業はサービスに関わるメンバーが集まり、ブレストベースでアイデアを出し合うワークショップ形式で行います。精度を高めるためには、サービスをよく知る各部門のコアメンバーの参加が必要です。ところが、各部門のコアメンバーは各自の業務が忙しいため、なかなか時間をとることができません。しかしプロジェクト化されていれば、業務としてメンバーも参加しやすくなります。コアメンバーが参加し意見を出し合うことで、より精度の高いCJMが作成できるだけではなく、各部門へのCJMの共有や意識統一も容易になります。
完成後はこのメンバーで委員会を設置し、2週間、長くても1ヵ月に一回、定例会を開きそこでブラッシュアップを行えば、常にCJMが最新の状態で更新されるため、陳腐化することはありません。
完成後はこのメンバーで委員会を設置し、2週間、長くても1ヵ月に一回、定例会を開きそこでブラッシュアップを行えば、常にCJMが最新の状態で更新されるため、陳腐化することはありません。
―確かにこれなら社内で活用できるCJMが作れますね。その他に気をつけるポイントはありますか?
CJMの作成では最初に、ペルソナ(自社商品の象徴的・代表的なユーザー像をモデル化したもの)を設定します。このペルソナをどれだけ細かく作れるかによって、CJMの精度は大きく変わります。
どれくらいの規模の会社で、担当者はどこの部署に所属しているのか、その部署は何人いるのかといった職場の情報だけではなく、趣味や趣向、どんなライフスタイルを送っているのかといったパーソナルな部分も考え、CJMの中に具体的な一人の人物を作り上げます。ペルソナの粒度を細かくすることで、細かな感情の変化や行動がイメージしやすくなり、結果として、精度の高いCJMを作成できます。
どれくらいの規模の会社で、担当者はどこの部署に所属しているのか、その部署は何人いるのかといった職場の情報だけではなく、趣味や趣向、どんなライフスタイルを送っているのかといったパーソナルな部分も考え、CJMの中に具体的な一人の人物を作り上げます。ペルソナの粒度を細かくすることで、細かな感情の変化や行動がイメージしやすくなり、結果として、精度の高いCJMを作成できます。
あとは顧客理解を深めるために、お客さまと直接会う機会を増やすことも大切です。
数千社、数万社が利用しているSaaSの場合、蓄積したデータだけでもある程度お客さまの状況は把握できます。それでも、実際に会って話してみないと分からない情報はたくさんあります。ペルソナに必要な、どういう性格の人がサービスを使っているのか、どんな趣味を持っているのかという情報はデータからだけでは知ることはできません。
CS部門や営業の方はお客さまと接する機会が多いと思いますが、開発の担当者もミーティングに同席して話す機会を作るなど、普段からリアルなお客さまの声を聞くようにしておくと、CJM作成にきっと役立つはずです。
CS部門や営業の方はお客さまと接する機会が多いと思いますが、開発の担当者もミーティングに同席して話す機会を作るなど、普段からリアルなお客さまの声を聞くようにしておくと、CJM作成にきっと役立つはずです。

3. すべてのビジネスシーンに活用できるCJM
―CJMはどんなビジネスシーンで活用できるでしょうか。
お客さまが商品・サービスを購入し、その使用感に満足を感じてもらい、長く愛用していただき、さらに同じ会社の他のものを買ってみようという気持ちを生み出す。CJMとして描くこの構造は商材の有形、無形は関係なく、すべてのビジネスに当てはまります。
例えば小売業であれば、店頭での接客やECサイトのUXを改善し、購買までのスムーズな導線を作るために、飲食業であれば、来店前の情報収集から注文、食事体験、再来店までの流れを整理し、予約システムの最適化やメニュー開発に活かせます。
ということは、CJMはSaaSに限らずすべてのビジネスで活用できるはずです。今回初めてCJMを知ったという方は、ぜひCJMを作ってみてください。顧客の視点に立って考えることで、新しい発見があり、より良い商品・サービスの提供につながるはずです。さらに、組織内の意識改革や業務改善のヒントが得られると思います。

―最後に、今後もWebセミナーの開催が予定されていますが、どんな方に参加してもらいたいか、メッセージをお願いします。
これまでのセミナーではCJMの概要や考え方を中心にお話してきましたが、これからは事例を使ってCJMの作り方をより具体的に解説していく予定です。CJMを活用しきれていない、まだCJMを作ったことがないCS担当者はもちろん、事業に課題を抱えて困っている方にも、有益な情報をお伝えしていくので、ぜひご参加ください。
さきほどCJMを作る際にはレイヤーが上の方の協力が必要という話をしましたが、過去には社長が自ら旗振り役となってコアメンバーを集め1泊2日の合宿でCJMを作成したこともあります。関係部署のメンバーが密になって話し合ったことで認識統一ができただけではなく、部署の垣根を越えてコミュニケーションがとれるようになり、結果的に社内の風通しがよくなったそうです。社内の連携に困っている経営層の方にも興味を持っていただけたら嬉しいです。

株式会社リンク
CustomerCoreアドバイザリー
加茂 了
大学院在学中にモンゴルの農産物を取り扱う会社を起業。約4年間、生産管理から経営業務まで幅広く携わったのち、2019年に株式会社サイトビジット(現freeeサイン株式会社) にジョイン。ジョイン後はCS拠点責任者として、2020年新潟県にカスタマーセンターを設立し、カスタマーサクセス、プロダクトマネジメントの責任者として、顧客/プロダクト双方を管掌する。