コンタクトレス決済の基礎知識 決済方法の主流になるコンタクトレス決済。スマホでも、カードでも使える!
コンタクトレス決済とは
コンタクトレス決済とは、プラスティック製のクレジットカードを決済端末にタッチするだけで決済が行える仕組みです。Suicaなどの交通カードで改札にタッチをする感覚で決済が行えます。多くの場合、サインをしたり、暗証番号を入力する必要もありません。コンタクトレス決済は、Mastercard、JCBでは「コンタクトレス決済」、VISAでは「タッチ決済」と呼んでいますが、NFC(近距離無線通信技術)を利用した最先端の決済方法で、共通規格化がされ、「EMVコンタクトレス」とも呼ばれます(EMVは、Europay、Mastercard、VISAの頭文字を取ったもので、クレジットカードの国際規格の名称です)。
決済操作が簡単になるだけでなく、安全性も飛躍的に向上します。また、スマートフォンによるスマホ決済「Apple Pay」「Google Pay」などもコンタクトレス決済に対応をしているため、同じ決済端末で、クレジットカードとスマホの両方の決済に対応することができます。
海外では標準になっているコンタクトレス決済
クレジットカードの進化の歴史は、安全性の進化の歴史です。元々は紙やプラスティック製の会員カードで、店舗と顧客の信頼関係によるツケ払いから始まったクレジットカードは、市場を広げるとともに、悪意のある人による不正行為も行われるようになり、それを防ぐために、EMV(ICカード方式)→コンタクトレス決済と進化してきました。そのため、最新の決済方式であるコンタクトレス決済が、今後の標準的な決済方式になることは確実です。国によっても異なりますが、すでに世界のクレジットカード決済の半数以上の決済はコンタクトレス決済になっています。
コンタクトレス決済が使われる理由は、安全性です。自分のクレジットカードを店舗スタッフに触れさせるのは非常にリスクの高い行為だと考える人が増えています。ICチップ対応のクレジットカード決済でも、場合によっては店舗スタッフがカードを預かって差し込んでくれるようなことがありますし、暗証番号の入力はカバーがあるとは言え、店舗スタッフの目の前でしなければなりません。しかし、コンタクトレス決済であれば、自分で決済端末にかざすので、人の手が触れることがありません。そのことに安心ができるのです。
すでに日本にきた外国人の中には、日本でタッチレス決済が使えるところが少ないことに驚いている人も多く、インバウンド対応の必要がある店舗では、コンタクトレス決済の導入は必須になっています。
図1:コンタクトレス決済対応店舗には、従来のクレジットカードブランドのロゴの横に電波マークがつけられる。これがコンタクトレス決済に対応しているマークになっている。VISA公式サイト(https://www.visa.co.jp/pay-with-visa/featured-technologies/contactless/contactless.html)より引用。
コンタクトレス決済の消費者側のメリット
決済が簡単
かざすだけで決済が終わるので面倒なところはまったくありません。店舗スタッフに「コンタクトレス決済で」と告げて、決済端末を準備してもらったら、クレジットカードまたはスマホをかざすだけです。サインも暗証番号も不要で、最も手間のかからない決済方法になっています。安全性が高い
自分以外にはクレジットカードやスマートフォンに触れることがないという安心感があります。また、トークン決済というセキュリティ上大きな工夫がされています。トークン番号はクレジットカード番号とは別に決められている番号のことで、このトークン番号は万が一流出をしても、トークン番号だけでは決済ができない仕組みになっています。店舗側にはトークン番号だけを渡し、クレジットカード番号は渡しません。そのため、クレジットカード番号が流出して悪用されるリスクがゼロになります。スマホ決済も行える
クレジットカードをApplePayやGooglePayなどのスマホ決済に登録をすると、自動的にスマホでコンタクトレス決済が行えるようになります。日本の場合、NFC対応ではなく、SuicaなどのFeliCa対応の決済端末が普及をしてしまったために、ApplePayやGooglePayは、コンタクトレス決済ではなく、「クレジットカード」→「iD、QUICPayなどの電子マネー」→「FeliCa端末によるタッチ決済」という複雑な方法で、擬似的にクレジットカードのコンタクトレス決済を実現していました。これがNFC対応の決済端末が増えるにつれ、直接クレジットカードからコンタクトレス決済ができるようになりつつあります。今後は、コンタクレス決済が主流になっていくと見られています。
世界中で利用できる
海外ではオーストラリアのようにコンタクトレス決済の普及率が80%を超えている国もあります。そのような国では、国内と同じ感覚で、コンタクトレス決済が行えます。海外では、スキミングなどの被害にあうリスクもあるため、コンタクトレス決済を利用するのが安全で安心です。図2:コンタクトレス決済に対応したクレジットカードにも電波マークがつけられている。このカードであれば、プラスティックカードでコンタクトレス決済が可能になる。VISA公式サイト(https://www.visa.co.jp/pay-with-visa/featured-technologies/contactless/contactless.html)より引用。
コンタクトレス決済の店舗側のメリット
客層が広がる
現在のキャッシュレス決済の主流はクレジットカード(プラスティックカード)ですが、将来的にはスマホ決済に移行をしていくと見るのが自然です。スマホ決済では、店頭だけでなく、オンライン決済もできるため、幅広いサービスに利用ができるからです。例えば、飲食店でも、店頭だけでなく、モバイルオーダーやデリバリー注文の決済にも利用できます。スマホ決済にはQRコード決済もありますが、コンタクトレス決済が普及をすれば、クレジットカードのスマホ決済+プラスティクカードによるコンタクトレス決済という組み合わせが、最も利便性が高くなり、支出も1箇所にまとめることができるので、この使い方が主流になっていくと見られています。インバウンドに対応できる
海外、特に欧米では、クレジットカードのコンタクトレス決済が主流になろうとしています。インバウンド客を取り込みたい店舗にとって、コンタクトレス決済への対応はもはや必須です。レジオペレーションが簡素化される
現金では釣り銭、QRコード決済では入金の確認、クレジットカード対面決済ではサインや暗証番号など、決済に伴う作業が発生しますが、コンタクレス決済では、決済端末を設定するだけです。業務フローが簡素になるということは、ミスも起こりにくくなるということです。また、現金決済やカードの磁気ストライプ決済、QRコード決済に比べて、顧客一人あたりのレジ作業時間も圧倒的に短縮されます。
安全性が飛躍的に高まる
コンタクトレス決済は、クレジットカード番号をやり取りするのではなく、トークン番号を使うトークン決済となるので、カード番号流出などの事故が起こらなくなります。顧客の安全を守ることができます。また、店舗側が利用客のカード番号を扱うことがないので、カード番号流出事故が起きても、コンタクトレス決済を行なっている店舗は流出源から除外することができます。顧客だけでなく、店舗を守ることができます。
図3:ApplePay、GooglePayなどのカード情報を見ると、電子マネー番号の他、すでにクレジットカードブランドの番号が設定されている。これがコンタクトレス決済用のトークン番号となっていて、コンタクトレス決済非対応のクレジットカードであっても、スマホ決済に登録することでコンタクトレス決済が利用できるようになる。
コンタクトレス決済の課題
場合によってはPINコード、サインが必要になることがある
コンタクトレス決済は、原則サインレス決済となるため、カードブランドによって利用上限額が定められています。それ以上の額の決済をする場合は、コンタクトレス決済をした上で、暗証番号(PINコード)の入力やサインが必要になります。現在、上限額は1万円から2万円に設定されていることが多いため、高額商品を販売している店舗では、コンタクトレス決済による効率化の効果が限定的になります。一方で、少額決済を主体にする店舗では効率化の効果が大きなものとなります。
レジスタッフの教育が必要
コンタクトレス決済のように「かざすだけで決済ができる決済方法」には、Suicaなどの交通カードによる決済、コンビニなどで普及をしている電子マネーカードの決済、電子マネーを経由させる日本国内向けApplePay、GooglePayなどさまざまなものがあります。このため、利用客から「タッチ決済で」と言われた場合に、スタッフが適切な決済方法を設定できるようになっておく必要があります。利用客側もまだコンタクトレス決済に不慣れであるため、店舗スタッフに決済方法を正しく伝えられないこともあり、レジで混乱が生じることもあります。
コンタクトレス決済を導入する時には、マニュアルをしっかりと作り、シミュレーションによる研修を行なっておく必要があります。
対応ずみのクレジットカードが必要
コンタクトレス決済を利用するには、対応ずみのクレジットカードが必要となります。対応はカード会社によりまちまちで、更新時期にコンタクトレス決済対応のカードを送付するところもあれば、利用者の方から申請をしなければならないところもあります。このため、未対応のクレジットカードでコンタクトレス決済をしようとして混乱をすることも起きています。店舗スタッフ側の方で、ICカード決済などに誘導をする必要があります。今後の決済の主流はクレジットカードに
コンタクレス決済の普及は始まったばかりです。有名なところでは、マクドナルド、ローソン、イオンなどの大手チェーンから導入が始まっています。とは言え、利用者側、店舗側に大きなメリットがあるため、今後の決済方式の主流になっていくことは間違いありません。決済端末の交換時期にきている場合、あるいはこれからキャッシュレス決済の導入を考える場合、コンタクトレス決済への対応は必須です。また、普及が始まったばかりの段階での導入は、他店の「ICカード決済」「QRコード決済」と比べて、圧倒的な利便性を顧客に提供できることになり、店舗の差別化にも寄与できます。
コラム
未対応のクレジットカードでもApplePayやGooglePayでコンタクトレス決済に対応できるコンタククトレス決済普及の鍵は、対応ずみのクレジットカードが消費者の間にどれだけ普及するかにかかっています。しかし、カード会社にとっては、コンタクトレス決済対応のクレジットカードは製造コストが高くつくため、なかなか積極的になれない事情もあります。
そこに登場したのが、ApplePayやGooglePayのスマホ決済です。クレジットカードを登録すれば、未対応のクレジットカードであっても、スマホ決済でコンタクトレス決済が利用できるようになります。スマートフォンに搭載されているNFC機能を利用できるからです。
アップルがApplePay、グーグルがGooglePayを始めたのは、ここが大きな理由となりました。カード会社にとってみれば、自社でコンタクトレス決済対応カードを製造しなくても、利用者がスマホ決済を使ってくれれば、コンタクトレス決済に対応ができるからです。カード発行会社にとっては大きなコスト削減ができることになります。この問題があるからこそ、アップルとグーグルは、スマホ決済サービスを始めれば、多くのカード会社が参加してくれるだろうという読みがありました。そして、その読み通り、多くのクレジットカードがスマホ決済に対応をしています。
日本では、NFC決済端末が普及をしていないという事情があって、FeliCaに対応をした電子マネー経由で決済をするという複雑な方法でスマホ決済をスタートさせましたが、ApplePay、GooglePayともにコンタクトレス決済にすでに対応済みです。
ウォレットアプリのカード情報を見ると、コンタクトレス決済に対応していることがわかります。デバイスアカウント番号が2つ設定されていて、「QUICPay」(電子マネー)の番号が電子マネー経由での決済(日本方式)でのトークン番号、「Mastercard」(クレジットカード)の番号がコンタクトレス決済でのトークン番号を表しています。
決済方法は、通常のスマホ決済と何も変わりません。「マスターカードのコンタクトレス決済で」とスタッフに告げて、決済端末を準備してもらったら、かざすだけです。ApplePayやGooglePayにクレジットカードを登録している方は、ぜひカード情報を見て、コンタクトレス決済に対応していることを確認してみてください。(執筆:牧野 武文氏)