サーバを提供するサービスのさまざまなカタチ ~レンタルサーバから専用サーバ、VPS、そしてIaaSへ~
クラウドを先取りしたレンタルサーバとVPS
2000年代後半から急速に浸透したクラウド・コンピューティングは、ITインフラの考え方を根本から変えつつあります。多くの企業がオンプレミスで構築していたシステムのクラウド移行を積極的に進めているほか、新たなシステムを構築する際、そこで利用するサーバとしてIaaSを利用することが当たり前になりました。
ただ、このようにサーバリソースやソフトウェアをネットワークで提供するというサービスは、クラウドという言葉が広まる以前から存在していました。その1つであり、インターネット黎明期から存在していたサービスが「レンタルサーバ」などと呼ばれているものです。レンタルサーバは主にWebサイトを運営するために利用するサービスであり、1台の物理サーバを複数のユーザーで共有します。利用者には一定のディスクスペースが割り当てられていて、FTPなどで接続してWebサイトのコンテンツとなるファイルをアップロードします。その上でWebブラウザを使ってサービス提供事業者が指定するURLにアクセスすれば、コンテンツが表示されるという仕組みです。
レンタルサーバではCPUやメモリといったリソースは共有であり、そのサーバを利用する複数のユーザーで共有することになります。そのため、たとえば特定のユーザーが極めて負荷の高いCGIを実行すると、その影響はほかのユーザーにも及んでしまうという難点がありました。また利用者は管理者権限を持たないため、rootが必要な処理を実行できないといった課題もあります。
このように制限が大きく、また用途も限定されているレンタルサーバ以外の選択肢として、物理サーバをそのまま提供する「専用サーバ」があります。データセンターにある物理サーバをそのまま利用するサービスであり、リソースを専有できるほか、root権限を使ってさまざまな用途に使うことができます。ただ高額な初期費用が発生するほか、申し込みから利用開始までに相応の時間を要するなど、使い勝手は決して良いとはいえません。
こうしたレンタルサーバや専用サーバの不満を解消するサービスとして、その後に登場したのがVPS(Virtual Private Service)です。1台のサーバを複数の利用者で共有するのはレンタルサーバと同様ですが、サーバ仮想化技術を用いることで、利用者ごとにCPUやメモリといったリソースを制限し、ほかの利用者の影響を受けづらくしています。また、root権限が割り当てられるため、専用サーバと同様にさまざまな用途で使える自由度を実現しています。さらに専用サーバと比較すると、仮想化技術を使うことで申し込みから利用開始までの時間が短いメリットもあります。
VPSにはないIaaSならではのメリット
仮想サーバを提供するIaaSは、このVPSをさらに発展させたものと捉えられるでしょう。大きな違いとしてまず挙げられるのはリソースの変更で、VPSの多くはサービスメニューによってCPUやメモリ、ストレージといったリソース量が定められており、利用開始後に変更することはできず、別のサービスメニューを契約し直す必要があります。しかしIaaSでは、(仮想)コア数やメモリ・ストレージ量の変更が可能であり、負荷の状況に応じてリソースを調整するといったことができます。
VPSとIaaSでは、課金体系も大きく異なります。多くのVPSは利用するリソース量に応じた定額制ですが、IaaSでは分/時/日単位での従量課金が一般的であり、短期間だけサーバを利用したいといった場面でも使いやすくなっています。
さらに現在では、仮想サーバではなく物理サーバをまるごと1台提供するベアメタルクラウドも登場しています。仮想サーバを提供するIaaSと同様に従量課金制となっているほか、リンク ベアメタルクラウドでは申し込みから30分程度で利用可能な状態となります。
物理サーバそのものを提供するためCPUやメモリ量のオンデマンドでの増減は不可能ですが、一方で仮想化のオーバーヘッドがなく、またほかの利用者の影響を受ける心配が一切ないといったメリットがあります。
ここまで解説してきたように、サーバリソースを提供するサービスは共有型と専有型に分けられます。従来、主流だったのはレンタルサーバやVPS、仮想サーバを提供するIaaSに代表される共有型でしたが、これらのサービスにはパフォーマンスの安定性に欠ける、仮想化によるオーバーヘッドが生じるなどの欠点もあります。新たなリソース専有型のサービスとして登場したベアメタルクラウドは、こうした弱点を解消しながらIaaSと同等の使い勝手のよさを実現しており、サーバ利用時の新たな選択肢として広まっていくでしょう。