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山地酪農の現場から届ける味 2代目牧場長が伝えたい「なかほら牧場」のこれから

山地酪農の現場から届ける味 2代目牧場長が伝えたい「なかほら牧場」のこれから

平らな牧草地ではなく斜面のある山の植生を活用し、24時間、365日、牛を自然放牧する「山地(やまち)酪農」を続けている、なかほら牧場。山地酪農にどうしてこだわるのか、毎日どんな想いで牧場の仕事と向きあっているのか……。2022年8月に2代目牧場長に就任した牧原亨さんをはじめ、現場で働くスタッフにその想いを聞いた。

1.2代目牧場長が語るなかほら牧場とは

――2022年の8月に2代目の牧場長に就任されて、ちょうど1年が過ぎました。この1年を振り返って感想を教えてください

「牧場長に就任して1年経ちました」と言われて、もう1年が過ぎたのかと驚きました。それくらいあっと言う間でした。これまで牧場のお客さまやメディアの取材対応はすべて前牧場長が担当していたので、私は縁の下の力持ちというか、牧場で牛の世話や、プラント責任者として商品の製造のことだけを考えていればよかったんです。それが牧場長になったことで対外的な対応もプラスされたので、本当に忙しくなりました(笑)。

その一方で、牧場長としてこれからどう歩んでいけばいいのかを日々考えることで、これまで長い年月をかけて代表の岡田と前牧場長が築き上げてきた“なかほら牧場”の看板を背負っているという感覚も自然と強くなりました。そういう意味では自分が想っていることを伝えていくことの大切さを感じた1年だったと思います。

2代目牧場長の牧原亨さん

――なかほら牧場の代名詞ともなっているのが“山地酪農”です。改めて山地酪農について教えてください。

簡単に言うと、牛を牛舎の中で飼うのではなく、365日、24時間山に放牧する飼育方法です。雨の日も風の日も、冬になるとこのあたりは雪が1mくらい積もることもあります。それでも牛たちは外で暮らすのが大前提になります。

「牛なり・ 山なり・ 自然なり」と私たちは言っていますが、なかほら牧場の牛たちは、野シバ・木の葉・クマザサなどの野草を食べて暮らし、自由に仔牛を産み育てています。牛が下草を食べて地面の日当たりがよくなると山の植生が変化し、野シバが一面に広がります。野シバと広葉樹の根に守られた山はちょっとの大雨では土砂崩れを起こしません。

山地酪農は牛の食性と本来の行動を守るだけではなく、山の利用や保全にもつながっています。
――山地酪農にこだわるのはどうしてなのでしょうか。

普段牛乳を飲むときにみなさんおいしいとか、好みじゃないとか、味のことを考えます。でもこの牛乳を搾った牛が何を食べているのか、どういう環境で暮らしているのかは考えませんよね。それは当たり前で、牛乳パックの裏面を見ても載っているのは成分と殺菌方法くらい。飼育方法なんて書かれていません。

でも人が子どもを産むと、母乳に影響がでないようにお母さんにいろいろなアドバイスをします。「お酒飲まないでね」とか、「チョコレートを食べると母乳が甘くなるからダメよ」とか、「ストレスをためないようにね」と。それは母乳が食べ物や生活環境にすごく影響を受けることを知っているからです。ミルクも母牛が仔牛を育てるために出しているわけですから、同じように何を食べて、どういう環境で育っているのかが、どれだけ大切なことなのかは言うまでもありませんよね。

私たちはお客さまの健康に役立つものを届けたいと考えています。豊かな自然の中で育った草を食べのびのびと暮らしている牛たち。自然にも、そして人に対しても本当にいいものを提供していると胸を張って言える。山地酪農はまさにそれを実現するものだと思っています。
――山地酪農の難しさはどこにありますか。

牛舎で飼っていれば、いつでも全頭の牛に会えます。でも、山地酪農は搾乳をする朝と夕方の2回しか会えない。しかもたった1時間程度です。その短い時間で牛たちの体調をチェックしたり、ちょっとした仕草からトラブルがないかを把握しなくてはいけない。牛は賢い動物なので、頭が痛いとか体調悪いとか、自分たちの想いをちゃんと態度で示してくれるんです。それを我々がいかに気づいてあげられるか、受信できるかが大切です。

そのためには世話をするスタッフが常にアンテナをオープンにして、受信できるように自分の体調を整えておかなくていけない。そこが難しいところですね。私たちスタッフがイライラしていたり、体調が悪くて牛のことを構っていられないようでは信号をキャッチできないばかりか、信頼関係が壊れてしまいます。

うちの牛は一頭一頭名前が付いています。名前を付けると距離が縮んで愛着が湧いてきます。どんなにいいことを言っていても、我々はその牛を屠(ほふ)るという選択をしなければならないことがありますし、そう考えると名前を付けない方がいいんじゃないかという考えもあります。でも、愛着があるからこそ、命の選択をしなければならないときに、より真剣に考えるようになる。真剣に牛と向き合うことで、もっと牛のことを考えるようになる。これって牛と人間の関係性においてすごくいい循環だと思うんです。うちの若いスタッフがその感覚を持ってくれると、なかほら牧場がもっと面白い牧場になるんじゃないかと期待しています。
――今後の夢を教えてください。

うちの牧場にいる牛たちってすごく幸せでしょと、私を含めスタッフが自己満足になってしまうことが一番怖いんです。そうではなくて、牧場に足を運んでくれた方が、実際に牛たちを見て「ああ幸せそうだな」と感じてもらえることができたら、自分たちがやっていることはやっぱり正しいんだと思うことができる。その上で、これは人間も同じですけど今の若い子と私たちのおじさん世代では幸せの価値って違いますよね。牛も同じで今が幸せだからといって今の仔牛が成長して幸せだと感じてくれるかどうかは分からない。次の世代もその次の世代も幸せだと感じてもらえるように我々も成長していく必要がある。それが多くの人に健やかでおいしい牛乳を届けることにもつながると思っています。

継続性を求めるのであれば、当然、収支も均衡させないといけないと思っています。山地酪農はこんなに素晴らしいんだよと伝えても、経営が成り立たなければ続ける人がいなくなってしまいます。次の酪農を担う若い子たちに「君たちもやってみない?」と言えるように、なかほら牧場でちゃんと経営が成り立つ姿を見せ、その結果、山地酪農が広がっていけばこんなに嬉しいことはありません。

2.季節によって味が変わる牛乳を作る

飼養班・露木亮太さん

――露木さんが担当しているお仕事を教えてください。

飼養班として牛の世話を担当しています。といっても山地酪農では365日、24時間牛を放し飼いにしているので、一番大変な糞尿処理作業はありません。毎日2回、山から牛を連れてきて搾乳をするのが毎日必ずやる業務です。それ以外の時間は牧柵を点検して壊れているところを直したり、冬は乾草を山に運んだり、除雪をしたり、牛たちがストレスなく過ごせる環境をつくってやるのが飼養班の仕事になっています。
――山地酪農に興味を持ったのはどうしてですか。

高校生のときにたまたま牧場に見学に行ったんです。そこは牛舎で牛を育てている牧場だったのですが、そこで酪農に興味を持つようになって、卒業後に酪農の専門学校に進学しました。酪農を学んでいく中で、価格を維持するために牛乳を捨てることがあるというのを知って、今の酪農に疑問を感じるようになりました。牛舎の中に牛を閉じ込めて餌を与えて、牛も人も大変な思いをして搾ったものを捨てる。こんな無駄なことってないですよね。そこで違うスタイルの酪農はないのかと思っていたところに山地酪農に出合って、ここで働きたいと考えるようになりました。
――自然放牧をすることで牛たちにはどんな影響がありますか。

牛舎で飼っている牛は運動をあまりせず、餌を食べているので体が大きいんです。でもうちの牛たちは山の斜面を登り下りしてしっかり運動をしているので体が締まっている。牧場に来ていただけると分かると思いますが、みなさんがイメージしている牛よりも小さく感じると思います。季節によって食べる草が変われば、牛乳の味も変わります。同じ牛乳なのに味が違うって、お店で売っているものであれば違和感を覚えるかもしれません。でもこれが本来の自然な姿だと思うんです。自然のままの健やかな牛乳を皆さんに届けたいという想いで毎日、がんばっています。

3.化学的添加物ゼロの商品をつくる

製造班リーダー・豊田千波さん

――豊田さんが担当しているお仕事を教えてください。

なかほら牧場のオンラインショップや東京の店舗では、ヨーグルトやアイスクリームやバターなどさまざまな商品を販売しています。これらの商品を作るのが私たち、製造班の仕事です。基本的に月曜日は牛乳、火曜日はヨーグルトと、曜日ごとに作る商品が決まっているので、そのサイクルに合わせて商品を作っていくのが毎日の業務です。あとは新商品の開発も私たちの仕事です。クリームリッチというアイスクリームは、既存のミルクアイスのレシピをベースに生クリームを加え、私と同期の女性スタッフの2人で何度も味を調整して開発したものです。
―製造にあたってどんなことに気をつけていますか。

どんなにおいしい牛乳を原料にしても、余計なものを入れると味が壊れてしまいます。どの商品も添加物は使わず選びぬいた材料だけを使って、牧場で搾った牛乳の自然の味をそのまま届けられるようにしています。
―豊田さんのお勧め商品を教えてください。

ピュアグラスフェッドバター」です。ホモジナイズ処理(※)をしていないなかほら牧場のノンホモ牛乳は時間が経つと自然に乳脂肪分が分離して生クリームが溜まります。この生クリームを1時間くらい機械で攪拌するとバターとバターミルクに分離します。なかほら牧場の牛乳は季節によって味が変わります。バターもそれに合わせて変化します。山の草が緑の夏場は黄色くなるし、緑が抜けた乾草を食べる冬は白っぽくなったり、と状態が変わるのが、作っていてすごく面白いです。

実は牧場で働くまではバターを好んで食べることはありませんでした。でも「ピュアグラスフェッドバター」に出合って考えががらりと変わりました。それくらいおいしいです。塩も使っていないので、牛乳の味をそのまま感じられます。バターなのにさっぱりしているのでご飯に乗せて食べるのがお勧めですね。季節によって変わる自然の味をぜひ楽しんでほしいです。
※ホモジナイズ処理とは、生乳に含まれる脂肪球を均一化する工程のこと。脂肪球を均一化することで、超高温殺菌の際に乳脂肪分が焦げつかなくなる。大量生産、大量消費時代に生まれた技術であり、国内で流通している牛乳のほとんどはホモジナイズされている。これに対してホモジナイズしていない牛乳をノンホモ(ノンホモジナイズ)牛乳と呼ぶ。なかほら牧場の牛乳は、時間はかかるがまろやかな風味がのこる低温殺菌なので、ホモジナイズ処理を必要としない。

4.なかほら牧場の味を全国に

催事班リーダー・吉野恭涼さん

――吉野さんが担当しているお仕事を教えてください。

岩手県内で開催されるイベントに出店して、なかほら牧場の商品を販売する催事班のリーダーをしています。出店の手続きをして、どの商品を何個持っていくかを決め、実際に現場に行って販売も担当します。ただ催事自体の数はそれほど多くなくて、今は牧場近くの観光スポット・龍泉洞で春、夏、秋に開催されるお祭りへの出店がメインになっています。
――催事ではどんな商品を販売していますか。

牛乳やプリンといった定番商品のほかに、イベントの限定でソフトクリームを販売しています。夏はプリンの上にソフトクリームを巻いたプリンソフトがインスタ映えをすると一番人気になっています。
これはオーバーでもなんでもなく、スタッフと、どのお客さまも一口食べると必ずおいしいという反応が返ってきます。この言葉を聞くと、牛たちの頑張りが報われた気がしてすごく嬉しい気持ちになります。
――今後の目標を教えてください。

催事班としては、商品を販売することももちろん大切ですが、それ以上になかほら牧場のことを知ってもらう、ファンになってもらうことが重要だと考えています。普段、牧場で仕事をしているだけでは、なかなかお客さまの反応が分かりません。想いをのせてというと大げさかもしれませんが、牧場のスタッフとお客さまとを繋ぐのが催事班の役割です。スタッフが直接販売をしている牧場は全国的にもほとんどありません。牧場の商品を味わってもらって、おいしいと言ってもらうだけではなく、こういう育て方をしているんですよとお話をして、お客さまに素敵な牧場だねと感じてもらう。そこに僕たちが直接販売をしている意義があると思っています。

イベントでなかほら牧場のことを知った人がオンラインで定期購入をしてくれるように、どんどんファンを増やしていきたいです。今はまだ、岩手県内でも牧場といえば小岩井農場と答える人がほとんどです。でも、牧場といえばなかほら牧場と言ってもらえるように、これからも催事を通してよりたくさんの人に牧場のことや山地酪農のことを伝えていきます。

事務発送担当・松下理花さん

――松下さんが担当している業務を教えてください。

なかほら牧場ではオンラインショップでお客さまから受けた注文はすべて牧場から直送しています。注文に合わせて商品を揃えて梱包し、発送をするのが私の担当です。牧場の商品は基本的に受注生産ですので、お客さまからの注文を集計して、製造班に依頼をかけるのも私たちの仕事です。
――今のお仕事で一番楽しいのはどんなときですか。

もちろんたくさん注文をいただくと嬉しいです(笑)。でも、それ以上にお客さまから届いた感想やコメントを読んだときが一番嬉しいです。「牛乳が苦手だったんだけど、なかほら牧場の牛乳はおいしいからいつも買っています」といったメールが届くと、お客さまが喜んでくれているのが分かってすごく嬉しくなります。

発送業務以外に、牧場に見学に来てくれたお客さまの対応も私たちが担当しています。最近は、なかほら牧場のことを書いた『しあわせの牛乳』という児童書を読んだお子さんが、将来山地酪農をやりたいと、親御さんに連れられて見学に来てくれるんです。自然のなかで牛たちが自由に過ごしている姿を見て、本の通りだって喜んでくれたり、楽しそうに牛追いを体験している姿を見て、私たちの方が元気をもらっています。
――毎日の業務で大切にしていることを教えてください。

私たちは、牧場でできた状態のものをそのままお客さまに届けたいという想いで業務にあたっています。例えば牛乳は、その日の朝65℃の低温でじっくり丁寧に殺菌したものを瓶詰めし、午前中の間に発送作業まで終えるようにしています。牛乳は熟成すると味が変化していきます。そのすべてを味わっていただけるように、発送にもこだわっています。ぜひ多くの方になかほら牧場の味をご自宅で楽しんでもらいたいですね。

なかほら牧場 公式オンラインストア

なかほら牧場 公式オンラインストア

通年昼夜の自然放牧で健康なウシを育てる『なかほら牧場』の直営オンラインストアです。ケミカルフリーのすこやかなミルクと乳製品をどうぞ。