カスタマーサクセスはなぜ重要?成功している企業の事例をもとに解説!
SaaS型のサービスで成功を収めている企業の中には、カスタマーサクセスへの本格的な取り組みとその成果が、ビジネスの成功に繋がっている企業が数多く存在します。
この記事では、カスタマーサクセスの先駆者といえる成功企業の事例を取り上げ、なぜカスタマーサクセスに取り組んだのか、そして成功のポイントは何であったのかについて解説します。
1.株式会社セールスフォース・ドットコム
株式会社セールスフォース・ドットコム(以下Salesforce)は、SFA(Sales Force Automation:営業支援)やCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)などの業務用システムをサブスクリプション型のサービスとして提供している、いわばクラウドサービスの先駆者です。2000年初頭からいち早くカスタマーサクセスモデルを提案して、取り組みを行っており、日本法人でも2005年と極めて早期から取り組みを開始しています。
顧客の継続利用なくしてビジネスは成り立たない
サブスクリプション型のサービスであるSalesforceは、ビジネスモデル自体が従来の売り切り型のITベンダーとは異なり、システム導入後の顧客の継続利用なしではビジネスが成り立ちません。そこで、導入後も顧客にシステムを利活用してもらうために、顧客の業務改善を支援するカスタマーサクセスの概念と役職が誕生しました。
顧客が末期症状になる前にサービスの有用性を感じてもらう
設立当初のカスタマーサクセスでは、解約する顧客に対して説得するための企業訪問を行う活動が多かったそうです。しかし、すでにシステムを使わなくなった顧客は、どのような対応でも「もう一度使おう」という気にはならず、大きな成果は得られませんでした。そこで、そのような状態になる前に顧客に有用性を実感してもらおうと、システム活用を促進するための支援活動を開始しました。
導入初期からシステム活用を促すため、顧客の課題とゴールを明確化する
Salesforce社はシステムの活用が進まないケースとして、経営企画部門と営業部門で意見の衝突が起きた場合を挙げています。
たとえば「今のままでは大きく成長できない」という経営企画部門の意見に対し、営業部門が「今のままでも売上があがっているのだからいい」という意見になり、ぶつかってしまったとします。
人間は変化を嫌う生き物であるため、新しい取り組みの必要性が理解できなければ、「今までのやり方を踏襲したい」という考えによってデータ入力が進まず、結果としてシステムの導入・活用が進まなくなる状況になってしまうそうです。
そんな状況を生まないために、まずは顧客の課題とゴールを明確化することが必要だといいます。システム活用によってどのように成長につながるのか、といったビジョンを具体的に共有できるようにし、導入・活用のハードルを解消することが重要と言っています。
顧客の利用状況をツールで分析し、フレームワークと組み合わせて業務改善を支援
ログイン率やデータ変更率・レポート参照率・ワークフロー設定数などをツールで分析し、利活用率の把握と利活用度を上げるためのサポートを行っています。なお、サポートを行う際には、Salesforce社が設定したフレームワークを活用し、以下の3つのステップで活用を広げています。
- 第1ステップ:ゴールの設定と目標・戦略・施策・KPIの設計
- 第2ステップ:定着化のための運用ルール策定
- 第3ステップ:業務改善
(参考)カスタマーサクセスとは何か?Vol.1 誕生の背景とコンセプト
カスタマーサクセスとは何か?Vol.2 Salesforce流カスタマーサクセスの方法
2. Sansan株式会社
Sansan株式会社は、クラウド名刺管理サービスを提供しています。2012年にカスタマーサクセスチームを立ち上げており、日本におけるカスタマーサクセスの先駆者といえる企業です。
顧客の成功に貢献することで、LTVの最大化を実現
Sansan株式会社は、「自社のビジネスの成功には、顧客が成果を上げ続けることが重要である」と説明しています。したがってカスタマーサクセスチームは、顧客の成功を目指して自社サービスの価値を提供し、LTVを最大化することをミッションとしています。
顧客をセグメントし、5つのチームで対応
Sansan株式会社は「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」のモデルを採用し、オンボーディングの成功率を重視した活動を行っています。したがって、顧客を企業規模と導入フェーズでセグメント化し、セグメント毎に異なるアプローチをしています。
例えば、大企業は2つのチームが対応をしています。
1つ目のチームは、専属の担当者が直接説明会を実施するなど、コンサルティング型のハイタッチ支援を行います。
2つ目のチームは、導入後に他部門に展開をするためのアップセルを行ったり、解約兆候がある場合にフォローを行なったりします。
また、中小企業に対しても同様に導入フェーズごとに3つのチームが対応をします。しかし、必然的にアプローチの数が多くなるため、電話やメールなどのテックタッチでカバーしています。
カスタマーサクセスツールを利用し、スコアで解約リスクを測定
解約兆候を見極めるために、以下の3つの指標で活用度をスコアリングしています。
- 契約IDのうち、どれだけのIDがログインや名刺スキャンを行っているか
- 1ユーザーあたりの名刺の読み込み枚数
- 週ごとの活用頻度
また、顧客との関係性(タッチスコア)も解約リスクの指標に取り入れています。タッチスコアには、Sansan株式会社から送付したメールの開封率や、eラーニング動画の再生回数などが含まれます。
活用度のスコアリングとタッチスコアは、いずれもカスタマーサクセスツールで管理しています。顧客状態(ヘルススコア)が悪化した場合、アラートが鳴るという仕組みを活用することで、迅速な対応を取ることができます。
(参考)40人で7,000社を支援!「ボランチ」として顧客を支援するカスタマーサクセスとは
3. freee株式会社
freee株式会社は、個人事業主や中小企業向けのクラウド型会計ソフト「freee」を提供しています。それまでは営業担当がカバーしていたカスタマーサクセスの取り組みを、2016年からは専任の担当者が引き継ぎました。
経理人材を経営に示唆を与えられるような人材へ変えていく
freee株式会社は、バックオフィス業務を行う経理人材を、経営に示唆を与えられるような人材へ変えていくことをカスタマーサクセスのもう1つのミッションであると考えています。現在だけではなく、未来の活躍まで見据えて、顧客の成功を考えていると言えます。
顧客の従業員規模によって事業部を分けて異なるアプローチを展開
freee株式会社も、Sansan株式会社と同様に「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」のモデルを採用し、顧客の従業員規模別に分かれた事業部で、それぞれに異なるアプローチを行っています。
また、それぞれの事業部によって活動内容が異なるため、全社のKPIとは別に事業部ごとにもKPIを設定して活動を評価しています。例えば、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3つを全て行う中小企業を担当する事業部では、顧客の成功度合いを測るスコア、利用状況を測るヘルススコア、満足度データなどを中間のKPIとして設定しています。
カスタマーサポートや開発部門と連携して、機能開発までサポート
カスタマーサクセスの担当者は、利用状況をヘルススコアによって点数化し、チャーンを防ぐ活動も行っています。しかし、役割はそれだけではありません。カスタマーサポートへ寄せられる声やアンケート活動の結果をもとに、サービスの機能開発の優先順位付けを開発部門と調整して行います。顧客の業務に与えるインパクトを鑑みた上で、開発の優先順位を判断するためです。
(参考)経理に携わる全ての人たちを、経営の“主役”に――freeeが挑む、もう1つのカスタマーサクセス
4.Slack Technologies, Inc.
Slack Technologies, Inc.(以下Slack)は、日本を含む世界150か国以上で活用されているビジネス用のコラボレーションツールを提供しています。海外法人・日本法人それぞれでカスタマーサクセス活動に取り組み、成功を収めている企業です。
カスタマーサクセスでは「聞く力」「理解する力」が重要
Slack社では、顧客がサービス利用を通して、ビジネスの価値を享受できるようにすることがカスタマーサクセスの役割と位置付けています。そのため、顧客がビジネス上重視している価値を正しく把握する「聞く力」「理解する力」が重要であると考えています。
データ分析やAIを活用したスコアリングにより、顧客への価値の提供度を評価
全地域において、以下の3つのスコアによって、顧客への価値の提供度を計測し、グローバルレベルと地域レベルで比較しています。そして比較結果を元に、各地域で必要なカスタマーサクセス戦略を組み立てています。
- 導入(Adoption)
- Slackへのログイン度合い
- 成熟度(Maturity)
- チャット以外の機能の利用、どれだけの業務を自動化できているか
- 感情(Sentiment)
- 顧客がSlackのことをどのくらい気に入っているか
ユーザー同士の繋がりを提供し、ユーザー愛を深める
Slack社では、チャンピオンズネットワークと呼ばれるパワーユーザーのネットワークを形成し、顔を合わせる機会や成功事例を共有するためのフォーラムを開催するなど、ユーザー愛を深める取り組みをしています。日本においては、アンバサダーネットワークと呼ばれる導入企業内でのチャンピオンズネットワークも形成し、各部門の先導役のリーダーからサービスを広げる施策に特に力を入れています。この施策の結果、100か所の事業所のうち90%が数カ月以内での利用を開始したなど早期定着を実現した顧客もいるそうです。
4つの指標でレッドアカウントを認識し、対策チームを構築
以下の4つの観点から顧客の状況を把握し、重大な問題を抱える顧客(レッドアカウント)がいる場合には解決策を検討するチームを構築しています。
- 利用状況(Usage)
- メッセージング機能(Messaging)
- チャット機能以外のプラットフォームとしての活用状況(Platform)
- パワーユーザー数(Power Users)
(参考)Slackのカスタマーサクセス事例――世界1200万人ユーザーの利用状況の把握方法とは?
5.弁護士ドットコム株式会社
弁護士ドットコム株式会社は、2015年にWeb完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」をスタートさせています。2019年には導入企業が3万社を突破し、急成長を遂げているクラウドサインですが、その要はカスタマーサクセスチームにあったといいます。
カスタマーサクセスチームが優先順位をつけてプロダクトへフィードバック
クラウドサインのチームでは、カスタマーサクセスの目的を「自社の事業収益に貢献すること」だと捉えているため、顧客の要望はMRR(月間定額収益)などの定量データと関連づけて優先順位をつけた上で、プロダクトへフィードバックを行っています。カスタマーサクセスチームは、プロダクトチームが客観的な収益インパクトを考慮して意思決定ができるようにサポートしているそうです。
事業部構成人数の約20%をカスタマーサクセスに割く
クラウドサインのカスタマーサクセスチームは主にチャットサポートをするメンバー、プロダクトフィードバックを行うメンバー、オンボーディング支援を担当するメンバーで構成され、その人数は事業部全体の約20%にも上ります。カスタマーサクセスに重きを置いた構成ですが、本格的に取り組むようになってから月間売上が10倍以上にもなったという実績があるそうです。
(参考)カスタマーサクセスに全力舵切りで10倍の事業収益に成長、クラウドサインに見る顧客の声の生かし方
6. まとめ
サブスクリプション型のサービスを成功させている企業は、組織的にカスタマーサクセスに取り組み、PDCAサイクルを回しながら最適な取り組みを行っています。この記事で紹介した企業は、以下の共通点があります。
- カスタマーサクセスを通して目指す姿を定義し、組織的に取り組みを行う
- 顧客をセグメント化し、各層ごとにハイタッチ・ロータッチ・テックタッチのアプローチを取る
- サービスの利用データや、顧客とのコミュニケーションの履歴などのデータを活用し、スコアリングを行うことで、顧客の状態を正確に把握する
- 顧客に対して適切なタイミング・内容のアプローチを行うためにツールを活用する
- 解約が発生する前にサービスの利活用をサポートする支援を行う
- 顧客から寄せられる声を元に機能開発の優先順位づけもサポートし、収益に繋がる機能開発に貢献する
自社に最適なカスタマーサクセスの取り組みを行うためには、トライアルアンドエラーを通して活動を改善することが求められます。また、成功企業の事例をもとに、ポイントを抑えて取り組むことが効果的です。