SaaSビジネスの成功に不可欠な5つの重要指標とは?
月額や年額課金のSaaSビジネスは、従来の売り切り型とは異なり、継続利用をしてもらうことが売上・利益に直結します。そのためには、顧客といかに長期的な関係性を構築できるかが重要です。一方で、現在の日本では多くのSaaSビジネスが台頭しており、その競争も激化しています。SaaSビジネスで成功を収めるには、SaaSビジネスの特徴を理解し、適切な指標を用いて自社の状況を定常的に把握する必要があるでしょう。
この記事では、SaaSビジネスを展開する上で重要となる5つの指標について解説します。
目次
- SaaSビジネスで指標が必要となるのはなぜか
- 成長性を把握するための2つの指標 MRRとARR
- 効率性を測る2つの指標 LTVとCAC
- 顧客との関係継続にかかわる指標 チャーンレート
- まとめ
1.SaaSビジネスで指標が必要となるのはなぜか
SaaSビジネスにおいて、従来とは異なる指標が必要とされるのには、以下のような理由があります。
継続利用によって利益が生み出されるビジネスモデルのため
SaaSビジネスでは、顧客の契約のしやすさや利便性を重視し、月額や年額での課金を行うサービスがほとんどです。一方で、企業側としては契約月だけの売上でコストをカバーすることは難しく、継続利用をしてもらうことによって安定した利益が生まれます。そのため、従来とは異なる、顧客の継続利用を考慮した指標を用いることが適切と言えます。
経営視点や投資視点でも未来の売上予測が重要なため
従来の売り切り型のビジネスモデルでは、将来の売上の確約がないため、必然的に過去の売上を用いて語ることが多くなります。
一方で、SaaSビジネスでは解約されない限りは将来の収入が確約されるため、予測性の高いビジネスモデルです。そのため、その時点において、定常的な収益(Recurring Revenue)がどのくらいあるのか、という視点を用いてビジネスの規模を測ります。また、投資家は将来の成長に対して投資を行うため、この定常的な収益を表す指標と成長率に着目します。実際に、多くのSaaS企業は決算報告の際に、ARRと呼ばれる年間経常収益の金額とその成長率を公表しています。
SaaSビジネスは赤字先行の期間が続くため
SaaSビジネスでは、サーバ費用や開発費用などの初期投資が大きく、ビジネスのスタートからしばらくは赤字先行の期間が続きます。そこで、ビジネスが軌道に乗るまでの間、サービスの価値を正しく見極めるためにも、将来の成長を予測する必要があります。
適切な指標を用いて、現状と課題の分析をすることが必要なため
SaaSビジネスは急速に拡大しているため、競争が非常に激しく、常にスピード感を持って現状の把握と対策を打つ必要があります。また、解約のハードルが低いため、迅速に課題を解決しなければその影響がすぐに収益の低下に繋がります。現状を正しく捉え、課題の明確化が可能な指標を用いなければなりません。
2.成長性を把握するための2つの指標 MRRとARR
ビジネスの成長性を把握するための指標として、まずは2つの指標を取り上げます。
MRR (Monthly Recurring Revenue / 月間経常収益)
契約時の初期費用など、一時的な売上を除いた、毎月繰り返し得られる収益のことです。その月に発生したアップセルやダウンセルも加味して算出します。月次の売上のうち、MRRが占める割合が高いほど、事業が安定していると判断することができます。毎月の継続的なキャッシュフローを期待することができるため、投資家からも事業の価値が高いと判断されます。また、MRRの成長率も同時に確認することで、事業の成長性を把握することが可能です。SaaSビジネスでは必須となる基本の経営指標です。
MRR = 前月のMRR + 新規顧客からの収益 + 契約顧客のダウンセル額(マイナス額) + 契約顧客のアップセル額 + 解約した顧客の減益額(マイナス額)
ARR (Annual Recurring Revenue / 年間経常収益)
多くの場合、MRRを12倍して算出します。年契約の場合は、ARRを12で割ることにより、MRRを算出します。多くのSaaS企業では、MRRかARRのいずれかを決算報告の際に用います。ARRは企業価値評価のベースとなるため、常に意識すべき指標の一つです。
3.効率性を測る2つの指標 LTVとCAC
ビジネスの効率性を測る指標としては、以下の2つの指標があります。
LTV (Life Time Value / 顧客生涯価値)
顧客1人(または1社)がサービスを契約してから解約するまでにもたらす売上の合計金額です。LTVが高ければ、そのぶん安定したキャッシュフローが見込めます。顧客との継続的な関係の結果によってもたらされる利益のため、顧客との良好な関係構築に成功しているほど大きくなると考えられています。LTVはアップセルやクロスセルを実現することによって、さらに大きくすることができます。カスタマーサクセスの成功による効果がわかりやすい指標の1つです。
LTV = その顧客の収益 × 継続契約期間
CAC (Customer Acquisition Cost / 顧客獲得単価)
顧客を1人(または1社)獲得するためにかかるコストです。見込み顧客の獲得に必要なマーケティング費用や営業部門の営業費用、オンボーディングのための費用などの合計額を獲得顧客数で割って算出します。低いコストで顧客獲得をした方が、利益を増加させることができるため、収益性向上のためにはCACを下げる努力も重要です。
CAC = 新規顧客獲得にかかる費用の合計(広告費+販促費+人件費等) ÷ 新規顧客獲得数
4. 顧客との関係継続にかかわる指標 チャーンレート
顧客の解約率のことです。いくら新規顧客を順調に獲得していても、解約の数が多ければ、高いMRR・ARR成長率を達成することはできません。特に顧客数が増加してくると、新規顧客獲得のハードルも高くなっていくため、利益の維持と拡大のためにチャーンレートは特に重要です。チャーンレートには大きく2種類が存在します。
カスタマーチャーンレート
顧客数をベースとして算出した解約率です。一定期間内にどれだけの顧客を失ったかを表します。
カスタマーチャーンレート = 今月解約した顧客数 ÷ 先月の顧客数
レベニューチャーンレート
収益をベースとして算出した解約率です。アカウント数やシート数などによって顧客が支払う金額が異なる場合は、大きな収益をもたらしていた顧客の解約による影響は大きくなるでしょう。そのため、顧客数をベースとするカスタマーチャーンレートだけではなく、レベニューチャーンレートも同時に確認することが重要です。
レベニューチャーンレート = 今月失ったMRR ÷ 先月末のMRR
5.まとめ
この記事では、SaaSビジネスの成功に不可欠な5つの指標について解説しました。売り切り型ではなく、継続利用を前提とした契約料などで収益を得る形態であるSaaSビジネスにおいて、安定した事業の継続を測るためには、特殊な指標を用いて事業を見る必要があります。
自社のサービス内容や顧客情報を考慮した上で、適切な指標を取り入れ、利益の拡大を目指しましょう。また、マーケティング面でのアプローチやオンボーディングの成功、カスタマーサクセスの実施などで数値を改善することも可能なため、自社の課題に即した対応も検討してみてください。