顧客ロイヤルティとは?顧客満足度だけでは不十分?重要性から向上のポイントまで解説!
突然ですが、みなさんは顧客ロイヤルティの改善に取り組まれていますか?新規顧客の獲得コストは既存顧客への販売の5倍のコストがかかるという法則(1:5の法則)があり、企業の成長のためには、新規顧客の獲得に目を向けるだけではなく、既存顧客を維持することも非常に重要です。そこで注目すべきなのが、自社の商品やサービスへの愛着度を示す「顧客ロイヤルティ」です。
この記事では、顧客ロイヤルティの重要性から、その測定方法、そして顧客ロイヤルティを向上させるためのポイントまで解説します。
1.顧客ロイヤルティとは
ロイヤルティ(Loyalty)とは、忠誠を表す英語です。顧客ロイヤルティとは顧客が企業やブランド、商品やサービスに対して感じる信頼や愛着を意味します。また、ロイヤルティの高い顧客のことをロイヤルカスタマーと呼びます。
顧客満足度とは何が違うのか?
顧客満足度は、商品やサービスに対して顧客の評価を確認する指標ですが、購入するまでのプロセスや購入後のサービスに対する評価は十分に測ることができません。多くの企業が顧客満足度調査を行う中で、顧客満足度の高さが必ずしも継続利用に繋がるわけではないことがわかってきています。商品やサービス自体への満足度が高くても、購入プロセスやサービス面で不満が高い場合もあるためです。このような場合には、同じような商品やサービスが競合他社から出てきた場合に乗り換えられてしまうおそれがあります。
これに対して、顧客ロイヤルティは一度の購入にだけスポットを当てるのではなく、継続利用に繋がる長期的な信頼や愛着を測る指標です。
2.なぜ顧客ロイヤルティが重要なのか?ロイヤルカスタマーを育てる3つのメリット
顧客の継続利用率が高まる
冒頭に述べたように、新規顧客の獲得コストは既存顧客への販売コストの5倍かかると言われています。そのため、いかに既存顧客の継続利用率・リピート率を高めるかが利益率に繋がる重要な視点です。既存顧客の継続利用率が損益に直結するサブスクリプション型のサービスでは特に重要です。
似たような商品やサービスが乱立している市場において、商品やサービス自体での差別化はより難しくなっています。しかし、顧客ロイヤルティが高い場合には、似たような商品やサービスが並んでいる中でも自社商品・サービスを選び続けてくれる可能性が高くなります。
顧客単価が増加する
ロイヤルティの高い顧客は、継続利用率が高いだけではなく、購入金額が高くなる傾向にあります。企業や商品・サービスに対しての顧客の愛着や信頼の高さは、購入を検討している商品やサービスをその企業から購入する動機になります。
既に信頼している企業からの購入は、別の企業を探す労力や手間を省き、失敗のリスクも低いことは想像に難くないと思います。BtoBの商品やサービスにおいても同様で、信頼する企業からの提案は前向きに検討される可能性が高く、アップセルやクロスセルの成功確率も高いと言われています。
顧客の口コミが新たな顧客の獲得に繋がる
ロイヤルカスタマーのメリットは、その顧客からの売上・利益が高いことだけではありません。BtoCはもちろんのこと、BtoBにおいても利用者からの口コミの影響力は高くなっています。情報過多の現代において、他の利用者や知り合いからの評価は信頼性が高いと判断されるためです。
ロイヤルカスタマーは、活用事例の紹介に協力的で、高い評価を自ら発信してくれる傾向にあります。新しい顧客の創出に繋がるという意味でも重要な存在です。
3. 顧客ロイヤルティの測定方法
NPS(Net Promoter Score)による測定
顧客ロイヤルティを定量的に測る指標として一般的に用いられているのがNPSです。NPSは「この商品(サービス、企業、ブランド)を親しい友人や家族にどの程度勧めたいと思いますか」という質問に対して、0~10の11段階で評価してもらうものです。
step1:調査企画・設計
NPS調査を行う上では、「何を知るために」「誰に」「いつ」「どんな内容を」質問するのかという調査の企画・設計が重要です。この企画・設計を怠ってしまうと、例えスコア付けができたとしても結局は根本の原因がわからない・改善方法がわからないという事態になりかねません。
分析結果から要因を解明し有効な施策に結びつけられなければ、調査をしても意味がないということをはじめに認識しておく必要があります。
NPS調査は、目的別に “リレーショナル調査”と“トランザクショナル調査”の2つに分けることができます。まずは、どちらの方法で行うのか、方針を明確にしましょう。
リレーショナル調査
- 目的:総合的な顧客ロイヤルティの計測全顧客接点の中から顧客ロイヤルティを下げている要因箇所を見つける、収益など企業全体のKPIとの相関を見る など
- 頻度:半年や一年など一定期間で定期的に行う
- 質問内容:顧客接点となるチャネル・商品・サービス・取引などの満足度を幅広く質問する
トランザクショナル調査
- 目的:顧客接点ごとの心理的満足度を計測、特定チャネル内の改善点を見つける、現場の管理指標(KPI)との相関を見る など
- 頻度:顧客と接触するたびに行う
- 質問内容:特定のチャネルや取引などの満足度を質問する
また、“1ヶ月以内にリピート購入してくれた顧客”に調査を依頼すれば、良い体験を与えられている箇所が分かります。さらに、“購入頻度が多い顧客”と“少ない顧客”を比較することで、改善点が見つかりやすくなるでしょう。どの属性の人に何を質問するのか、戦略的に設計しなければなりません。
step2:アンケート作成・実施
企画・設計の後は、具体的な質問項目を作成します。質問項目は、step1で決めた目的によっても異なりますが、以下のような内容を含めるのが一般的です。
- 推奨度
Q:あなたがこの企業(商品・サービス・ブランド)を親しい友人や同僚に勧める可能性はどれくらいありますか?(0〜10から選択)
- 推奨/非推奨理由
Q:上記のように評価された理由を教えてください(自由記入)
- ロイヤルティ構成要素
Q:各要素*について満足度を教えてください。(0〜10から選択)
- 属性・セグメント・行動
Q:当てはまる年齢を選択してください。実際にXXを友人や知人に勧めたことがありますか?など
(*)製品・サービスの質、接客態度、納期、アフターフォローの対応など、顧客ロイヤルティに影響を与えうる要素
質問が多すぎると回答率が下がってしまう可能性があるため、質問項目はできるだけ絞り込むようにしましょう。この時、カスタマージャーニーマップやカスタマーセンターに集まっている情報を参考に、“このあたりに痛点がありそうだ”といった仮説を立てておくことも重要です。
また、回答者数が少ないと統計的に信頼性の低い結果になってしまうため、アンケートを実施する際には、回答率をあげる工夫も必要になります。所要時間を明記して回答者にかかる負荷が低いことを明示する、インセンティブとなる特典を準備するなどの工夫が回答率の向上に効果的です。
step3:データ分析
アンケート結果が集まったら、データを分析しましょう。0点〜10点の推奨度をもとに顧客を以下の3つに分類し、回答者全体に対する推奨者の割合から批判者の割合を引いたものをスコアとします。
- 批判者:0~6
- 中立者:7~8
- 推奨者:9~10
NPS=(推奨者の割合)―(批判者の割合)
この際、日本ではスコアがマイナスになるケースがほとんどであるという点に注意が必要です。
日本人は、5や6を中立と考える傾向があります。つまり、“特に不満はない”と考えて6と評価した人も、“非常に不満がある”と考えて0と評価した人も同じ批判者となってしまい、必然的に批判者の割合が大きくなるのです。
そのため、スコアの絶対値はさほど気にするべきではありません。
最も重要なのは、“理由”“推移”“競合比較”です。
“理由”の分析によって、継続すべきこと・改善すべきことが明確になり、有効なアクションの策定につながります。“推移”とは、過去から顧客ロイヤルティがどのように変化しているかを把握するためのもので、実施した施策が有効であったのかどうかを判断できます。
また、競合のNPSと比較することで、市場における自社のポジションを相対的に把握でき、優先的に実施すべき施策を洗い出しやすくなります。
step4:アクション策定
NPS調査の結果から、ロイヤルティの高い/低い顧客、ロイヤルティを高めている/低くしている要因などが分かったら、ロイヤルティを高めるためのアクション策定に移ります。次章でより詳しく説明しますが、何らかの施策を実施した後も継続的にNPS調査によって効果を測定し、さらに新たな施策につなげることが重要です。
NPS以外の測定方法
顧客ロイヤルティを測る指標としてはNPSが一般的になりつつありますが、もし自社に合わない場合は、別の測定方法を検討してもよいでしょう。顧客ロイヤルティを測るにあたり、“これでなければならない”という決まりはなく、自社に合うものを選択・カスタマイズしていくことが重要です。
NPS以外の調査方法として、以下の2つを紹介します。
CE11
- 米国の調査・コンサルティング会社であるギャラップ社が提唱
- ロイヤルティの重要な「満足度」「継続意向」「推奨意向」に愛着指数を加えた11の質問で構成
CX Index
- 米国の調査・コンサルティング会社であるフォレスター・リサーチ社が提唱
- 6つのカテゴリ(「効果・価値」「簡単」「情動」「継続意向」「追加購入意向」「推奨意向」)に分類される50の質問で構成
4. 顧客ロイヤルティの高め方
顧客ロイヤルティを高めるためには、あらゆるタッチポイントにおいて良質な体験を提供し、心理的な結びつきを強くしていかなければなりません。では、具体的にはどのような施策が有効なのでしょうか?共通する前提の考え方と、主要な施策例に分けて説明します。
前提の考え方①:顧客を理解する
まずは、顧客を理解することが重要です。顧客ロイヤルティが高い人はどのような体験に満足しているのか、逆に低い人は何がネガティブな要素になっているのかを明確にしましょう。前述のNPSだけでなく、インターネット上の行動履歴分析や、オフラインでの行動を観察するエスノグラフィ調査なども活用できます。
これらの調査結果は、顧客属性別のカスタマージャーニーマップを作成し、タッチポイント別の感情をマッピングすることで、改善すべき点をより明らかにするために役立ちます。
前提の考え方②:顧客のセグメント化
顧客ごとのロイヤルティが測れたら、それらをセグメント化し、セグメントごとに施策を実行していくことが有効です。企業の資源は有限であり、すべてのセグメントに同じだけ資金や人的リソースを充てられるわけではありません。セグメントのボリュームや、事業へのインパクトなどによって、優先順位の高いセグメントを定義し、優先度に応じた施策を実行していきましょう。
セグメント化の一例として、NPSの回答結果を元にした推奨度と顧客収益性(高・低)をかけあわせた、以下の6つに分ける方法があります。
・収益性が高い推奨者(エンジェル)
企業にとって最重要のロイヤルカスタマーです。このセグメントの維持は優先順位の高い項目です。利用金額に応じたポイントやマイルなどの特典の提供が代表的な施策の一つです。各セグメントからいかにエンジェル層に移行させるかが重要だと考えられています。
・収益性が高い中立者(エンジェル候補者)
ロイヤルカスタマーの候補者です。ロイヤルティを高め、エンジェルに移行してもらうための施策を検討します。
・収益性が高い批判者(抑留者)
見せかけのロイヤルカスタマーです。離反されると利益への影響が大きいため、優先してこの層のロイヤルティ向上策を検討する必要があります。企業側からの能動的なサポートなどによって顧客ロイヤルティを向上させましょう。
・収益性の低い推奨者(宣教師)
他人には勧めるものの、自分では買わない層です。どこに課題があるのかを明確化しましょう。
・収益性の低い中立者(不可知論者)
関心の低い層であり、優先順位は低い層です。
・収益性の低い批判者
ロイヤルカスタマーに育て上げるのが最も難しく、そのために優先順位の最も低い層です。
主な施策
施策例①:不満箇所の改善
どんなに良質な体験を提供できても、どこかに決定的な不満があれば結果としてロイヤルティは下がってしまいます。そのため、まずはネガティブな要素を取り除くことを優先しましょう。
近年ではネット上での購買活動が活発になるにつれて「ネット上でサイズや素材がどこに書いてあるか分からない」「購入しようと思ったら別のサイトに飛ばされて何度も氏名や住所を入力させられる」などといった不満も多く耳にするようになりました。
顧客に対して「簡単・分かりやすい」「正確・丁寧」「スピーディ」「親切・礼儀正しい」といったポジティブな感情を持ってもらえるようになっているかを考えながら、店舗やカスタマーセンターの接客・業務プロセス・webサイトのUI(ユーザー・インターフェース)など、顧客の不満につながる部分の改善を行いましょう。
また、改善した内容を顧客に報告することで、「誠実だ」「信頼できる」といったよい印象を与えることに繋がることもあります。
主な施策例②:パーソナライゼーション
パーソナライゼーションとは、顧客の嗜好やニーズに合わせて、適切な商品や情報を提供することを指します。顧客の属性(年齢・性別・家族構成など)や、過去の購買履歴、トレンドなどを総合的に加味して行います。
具体的な例としては、“同じ商品をECで何度もチェックしている顧客に限定クーポンを配布する”“購入した商品の活用方法をメルマガや動画コンテンツなどで配信する”“過去に購入した商品の関連商品をおすすめする”などの施策が考えられます。
個人に合わせたアプローチを行うことで、「いい商品を勧めてくれる」「私のことを理解してくれている」という心理的な満足感を高められます。
主な施策例③:ロイヤルティプログラム
ロイヤルティプログラムは、購入頻度や利用金額の大きい顧客に対して、特典を与える施策です。
具体的には、“新商品のサンプルを無料提供する”“誕生日月にプレゼントを贈る”“セミナーや体験会への参加権を提供する”といったことが挙げられます。ロイヤルティプログラムを行うことで、「特別に思ってくれている」「信頼できる」と感じてもらえ、心理的な結びつきが高まります。
既にロイヤルティの高い“エンジェル”をつなぎとめるだけでなく、“エンジェル候補者”や“抑留者”など収益性は高いもののロイヤルティが低い層を上の層に引き上げることにもつながります。
主な施策例④:ブランディングの徹底
顧客と心理的な結びつきを強めるには、自社の価値観や倫理観を明確にして伝えていくことも重要です。“この事業や商品はどのような課題を解決するためのものか”“お客さんにどうなってほしいのか”“環境への影響を考えてどのようなことに取り組んでいるのか”など、自社の想いを伝えることで、「私の価値観と合う」「顧客であることを誇りに思う」といった心情を生み出せるでしょう。
主な施策例⑤:カスタマーサクセス
BtoBにおいては、顧客の成功を自社の成功と位置付けるカスタマーサクセスが重要です。顧客と伴走する姿勢は、特に初めてそのサービスを利用して社内プロセスを構築する際には顧客にとって大きな支えとなります。
また、企業からの適切なサポートにより、成果を得たことを実感できれば「期待以上の対応をしてくれる」「この会社(商品・サービス)はなくてはならない存在だ」といった強い心理的な結びつきを得られます。
5. まとめ
顧客ロイヤルティの向上は既存顧客の継続利用率を高めるだけではなく、口コミ効果により新規顧客獲得にも繋がる重要な要素です。まずは、NPSなどを活用し、現在の自社の顧客ロイヤルティを可視化して課題を抽出するように努めてください。また、不満を持っている箇所を改善するといったネガティブな要素を取り除くだけでなく、カスタマーサクセスによるサポートも、ロイヤルティを向上させる上で重要な施策です。積極的に取り組み、顧客にとってなくてはならない存在を目指しましょう。